映画「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」――ローマ環状線沿いに生きる人々の生と聖
イタリア・ローマの都市部と郊外の境目を円弧を描いて伸びるローマ環状線高速道路(GRA)。1951年に開通し、いまは一日16万台もの車が行き交う全長170kmに及ぶ大動脈だ。この沿道で暮らすさまざまな人種、生活層の人々の日常を詩情豊かに描いたドキュメンタリー。
環状道路沿いの草を食むヒツジの群れ。ローマ市郊外かと思えるような風景だ。ヤシの木も植えられていて植物学者が音波探知機などを使いながら害虫の生態を研究している。 テヴェレ川ので7代続いているウナギ漁師は、輸入ウナギでの養殖のニュースに憤懣やるかたない。
マンションが建ち並ぶ市街地にあるお城のオーナーは、城での映画撮影や様々な利用を売り込みながら贅沢な暮らしぶりを演出する没落貴族。
アパートの一室で日がな一日世間話から知的な文学論までとりとめなくおしゃべりしている老紳士とその娘。
キャンピングカーでの流浪暮らしをはかなみながらも自由であることを謳歌する両性具有の車上生活者。
認知症の母親を在宅介護しながら毎日事故でのけが人などを搬送する救急隊員。
物語のような展開があるわけでもなく、自由詩のように生き生きと、まるで五線紙に一音ずつ記されている音符のように、一人ひとりが自由闊達に挿入され曲を奏でているかのように会話とシーンが飛び交っていく。
原題はSacro GRA(神なる環状線)。ローマの中心、バチカン市国にコンパスの軸を据え、半径10Kmほどの円を描くようなローマ環状線高速道路を、聖餐式の杯になぞらえている。だが、サン・ピエトロ大聖堂のような、これぞローマと呼べるような名所旧跡は一つも登場しない。この聖なる杯の縁に暮らし、表面張力のように溢れそうなみずみずしい生命力が言葉で語られ、その日一日生かされた恵みを慈しむカメラに収めていく。
登場する人々の何と自然な振舞い。アメリカの俳優であり監督のオーソン・ウェルズが、「イタリア人は皆名優だ。大根だけがプロ(役者)になる」といった言葉を思い出した。 【遠山清一】
監督:ジャンフランコ・ロージ 2013年/イタリア=フランス/イタリア語/83分/ドキュメンタリー/原題:Sacro GRA 配給:シンカ 2014年8月16日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.roma-movie.com/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/ローマ環状線めぐりゆく人生たち/1430924123818276
2013年第70回ベネチア国際映画祭金獅子賞受賞。