映画「ローマの教室で~我らの佳き日々~」――出会いこそ心と心をつなぐエデュケーション
鋳型にはめ込んでいくような教え方、覚えさせ方の教育方法からすると、人格性や能力などを引き出すような教育(エデュケーション)は広まっていないのかもしれない。引き出すのは教師の役目で、持てるものに気づいていない才能の宝庫が生徒。そのような既成概念を変えてくれる作品。立場を超えて、人間としての出会いが心と心を解かし、殻に閉じ込め守っていたもの、気づきたくなかったものを引き出してくれる。
ローマの小さな高校。学校運営は予算的にも厳しい様子でジュリアーナ校長(マルゲリータ・ブイ)自らがトイレットペーパーの補充に回っている。2学期に入り、新任の国語補助教師ジョヴァンニ(リッカルド・スカマルチョ)がやってきた。教師であることに情熱を持ち、課題授業内容のだけでなく人間性への知的な刺激を与える教育をしたいと生徒たちに吐露する熱血漢。だが、「教師は学校内の教育だけすればよい」が持論のジュリアーナ校長や「生徒はみんな頭が空っぽ」と嘆く老齢な美術史教師フィオリート(ロベルト・ヘルリッカ)からすると、ジョヴァンニの情熱的な教育観は冷笑の的だ。
ジョヴァンニは4年F組のクラスを受け持つことになった。授業中でもイヤホンをはずさないシルヴァーナ、挑戦的な態度を見せるサフィラ、お調子者のチャッカ、ルーマニアからの移民でクラス一番の優等生アダムなど個性的な生徒たちだが、なかでも欠席が多い女子生徒アンジェラ(シルヴィア・ダミーコ)の行動が気にかかるジョヴァンニ。車で学校までアンジェラを迎えに来るジゴロ風の中年男。最近、父親が失業し、母親はなくなったばかりだという。だが、クラスの生徒たちは、亡くなったと言われた母親の姿を町で見たという。アンジェラを信頼したいジョヴァンニだが、戸惑いを隠せない。
独り暮らしを謳歌するフィオリート宅の留守番電話に、かつての生徒で近くの臨床検査室で働いているエレナ(ルチア・マシーノ)だと名乗る女性からのメッセージが残っていた。その臨床検査室に行ってみたが、自分に気づいて声をかけてくるものはいなかった。だが、ある晩、エレナが検査結果を持ってフィオリートの自宅を訪ねて来た。エレナは、かつて教室で教えていたフィオリートは、「鷹揚で情熱的で快活だった。先生の授業が楽しみで、『ロマン主義と古典主義』の授業に遅れたことを今でも後悔している」と、フィオリートへの憧れを語り始めた。
校内を見回っていたジュリアーナ校長は、体育館で寝泊まりしたいたらしい男子生徒エンリコ(ダヴィデ・ジョルダーノ)を見つける。事情を聞くと母子家庭なのだが、3日前から母親が失踪したという。寒い体育館で過ごしたため咳き込んで止まらない。とりあえず病院で診察させると呼吸器疾患で検査入院が必要だという。そのまま放置すれば、学校の責任者として保護義務放棄になってしまう。しかたなくエンリコの面倒を見るジュリアーナ校長だが…。
日本ほどの受験環境の圧迫感はないのだろうが、テストや評価で青点を取って進級・卒業できるのか、赤点で落第や退学になるのかは雲泥の差。原題は’Il rosso e il blu’で教師が使う赤と青の二色鉛筆のこと。マルコ・ロドリの同名のエッセイ集が原案になっている。生徒らの将来に少なからぬ影響を及ぼす教師の評価。その職業観と人間的な心の揺らぎが繊細に描かれていて温もりのある作品。センシティブだが個性を発揮してありのままに生きているかのような生徒たちを描きなかがら、3人の教師たちがそれぞれに内面的な何かが引き出されていくプロセスが何とも愉しい味を出している。 【遠山清一】
監督・脚本:ジュゼッペ・ピッチョーニ 2012年/イタリア/イタリア語/101分/映倫:G/原題:Il rosso e il blu 配給:クレストインターナショナル 2014年8月23日(土)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.roma-kyoshitsu.com/
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