一人娘を殺害された父親のサンヒョン(左)の心痛を思いやるオッグァン刑事。 © 2014 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

東野圭吾の同名小説(2004年)を’映画’として大胆に脚色し、原作のメッセージ性を深みをもって描いている作品。一人娘を少年たちに殺害された父親サンヒョン(チョン・ジェヨン)とサンヒョンの心痛と苦悩に受け止めつつも追跡するオッグァン刑事(イ・ソンミン)、2人の心の葛藤を繊細に描いていくイ・ジョンホ監督の脚色演出は、年齢にかかわらず人間の罪と犯罪性の根深い問いを観客一人ひとりに問いかけている。

早くに妻を亡くし、織物工場で働きながら中学生になった一人娘スジン(イ・スビン)を育ててきたサンヒョン。残業が多いことで口論した翌朝、スジンはムッとした様子で無言のまま登校する。だが、雨の夜なのにスジンが帰っていない。不安な気持ちで仕事しているサンヒョンに警察から連絡が入った。
不良少年たちがたむろしている廃業した銭湯の建物内でスジンはレイプされ、投与された薬物のショックで死に、遺体をそのままにして逃げている。茫然自失したように現実を受け止めきれず、警察署前のベンチに座ったまま動けない。被害者家族の苦痛を見てきているオッグァン刑事だが、サンヒョンに自宅待機するよう勧めるしかない。
警察から戻ってきたスジンの携帯に、匿名メールが届いた。そこには実行犯2人の名前と住所そして証拠品が入っている箱の特長が書かれている。サンヒョンは、実行犯と記されているキム・チョリョン(キム・ジヒョク)のアパートの部屋に忍び込んだ。携帯をかけながら戻ってきたキム・チョリョンは、パソコンでスジンが暴行されるDVDを見ながら携帯で話し続けている。もう一人の実行犯ドゥシク(イ・ジュスン)と逃走の打ち合わせをしているらしい会話が終わると、サンヒョンは怒りを抑えきれなくなりキム・チョリョンに殴り掛かる。
我に返り、キム・チョリョンを見つめるサンヒョン。ドゥシクと待ち合わせの駅へ向かう。

犯人の少年たちに父親として刃を向けるサンヒョン(チョン・ジェヨン)。 © 2014 CJ E&M CORPORATION, ALL RIGHTS RESERVED

韓国では、日本と同じように少年による刑事事件の増加傾向や重大事件に対する量刑と社会復帰への配慮について社会的にも大きな関心と議論が継続されているようだ。韓国では、本作への関心も高く、今年4月の公開初日にデイリー興行成績1位、公開第1週累積動員数は45万7817人を記録している。 本作のストーリーそのものもさることながら、象徴的なシークエンスのひとつに、オッグァン刑事が逮捕した、友人を殺害し刑期を終えて出所した少年を時間があれば様子を見に行く展開がある。公園で友達とバスケットをしていても刑事が付かず離れずの距離で見られている少年は、「もう刑期は済ませたんだから、来ないでくれ」とオッグァン刑事に直談判する。だが、オッグァン刑事の行為は、社会復帰を配慮して量刑を酌量されている加害者少年たちを’見届ける’大人の責任を象徴しているようにも受け取れる。

スジンはレイプ目的で拉致され、薬物の投与量を間違えて死亡する。サンヒョンは、レイプ殺人ではなく、過失致死ならば逮捕されても数年の刑期が予測されると刑事から聞かされる。法律という社会的’正義’の理屈だけでは、懸命に守ってきた娘の人生を断絶され、将来に向かって抱いていた希望を見届ける父親としての愛情までも理不尽に奪われてしまった絶望は癒されない。
単純な復讐劇ドラマでは終わらないサンヒョン自身の’正義’が、あなたはどう思い、どう考えると語り掛けてくる。 【遠山清一】

監督・脚本:イ・ジョンホ 2014年/韓国/韓国語/122分/映倫:PG12/英題:Roving Edge 配給:CJ Entertainment Japan 2014年9月6日(土)より角川シネマ新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://samayouyaiba.net/
Facebook:https://www.facebook.com/samayouyaiba

2014年第35回青龍映画賞ノミネート作品