斬新な広告テクニックを駆使して民衆の心を掴もうと政治キャンペーンを展開するレネ・サアベドラ © 2012 Participant Media No Holdings, LLC

1988年、南米チリ。ピノチェト独裁軍事政権への信任継続か否かを問う国民投票が実施された実話を元にしたドラマ。政治の裏と表、デモと制圧といった緊張感のなかでクールに広告手法を駆使して国民に新たな気付きをアピールしていくアドマンのプロとしての平常さがなんとも印象的。当時のニュースやテレビCMも使われ、違和感を感じないようあえてアナログビデオカメラで撮影し、80年代の臨場感を醸し出している。

広告クリエイターのレネ・サアベドラ(ガエル・ガルシア・ベルナル)の職場に、親しい友人ホセ・トマ・ウルティア(ルイス・ニェッコ)が訪れる。ピノチェト独裁軍事政権の信任の是非を問う国民投票までの27日間、信任賛成派「YES」と反対派「NO」の両陣営に1日15分のテレビCM枠が許可された。ウルティアは、「NO」陣営を取りまとめる中心人物で、サアベドラにテレビCMなどの広報責任者を担ってほしいと依頼しに来た。
カメラマンのフェルナンド(ネストル・カンティリャーナ)らが作ったテレビCMは、現政権が反対派自国民に行っている逮捕、拷問、追放などの弾圧を告発する内容。サアベドラは、はっきりダメだしの意見を言い、恐怖や辛い経験を思い出させるのではなく有権者がもっと喜び、楽しさをイメージさせ明るい未来を提示すべきだと主張する。
サアベドラが作ったテレビCMは、資本主義の象徴のようだと弾圧され辛酸を経験してきた「NO」派の党員からは非難されたが、キャンペー曲や斬新でウィットに富んだショートストーリーなどはしだいに有権者の心をつかんでいく。
「YES」派陣営は心中穏やかではなくなる。さまざまな妨害やサアベドラにも妻子をネタに脅しをかけてくる。また、サアベドラの上司ルチョ・グスマン(アルフレド・カストロ)を広報責任者に迎え、「NO」派に対抗キャンペーンのテレビCMを展開する。そして、国民投票の日を迎えた。

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政治がテーマの映画だが、2人の広告クリエイターのドラマでもある。しかも、政治観にポリシーを持っているかといえば、そうでもなく関心は薄い。それだけに、サアベドラが「YES」派のテレビCMを作りながら、しだいに政治への関心に目覚めさせられていく感覚がおもしろい。しかし、政治にのめり込むことはない。ひとりの人間として仕事と家庭を大切に守ろうとする姿がなんともクールだ。 【遠山清一】

監督:パブロ・ラライン 2012年/チリ=アメリカ=メキシコ/スペイン語/108分/原題:No 配給:マジックアワー 2014年8月30日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸ほか全国ロードショー。
公式サイト:http://www.magichour.co.jp/no/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/映画NO/789703961061865?fref=ts

2012年第65回カンヌ国際映画祭監督週間アートシネマアワード<最高賞>受賞、第85回アカデミー賞外国語映画賞ノミネート、第53回テッサロニキヤ国際映画祭Open Horizons部門観客賞受賞、第25回東京国際映画祭コンペティション部門上映作品。2013年第26回ヘルシンキ国際映画祭観客賞受賞作品。