©2012 Lion Rock Films Pty Limited

気品ある芳醇なボルドーのワインは、時として芸術品として評される。世界的に有名なボルドーワインの5大シャトーとは、ナポレオン3世の時代1855年のパリ万国博覧会で、ボルドー・メドック地区の格付けで’第一級’の称号を与えられたラフィット・ロスシルド、マルゴー、ラトゥール、オー・ブリオンと、1973年に第一級へ昇格されたムートン・ロスシルドを指す。近年、これら5大シャトーの高級ワインが1本100万円レベルの値を付けられ投機商品に化している’秘密’を、本作は解き明かしている。

冒頭からショッキングなトピックスが紹介される。100年に5度くらいといわれるヴィンテージワインの豊作が、2009年と2010年に連続して生まれ高値を呼んだ。いわば、ワイン価格の乱高下の背景には、’先物売買’のシステムがあったのだ。

だが、この幸運のヴィンテージワインは、それまで’先物売買’のおもな顧客であった英国、スイスやアメリカなどの個人投資家や輸入業者の手に渡らなかった。グローバルな経済市場に台頭してきた中国人投資家が買い漁っていった。あるワインジャーナリストは、今では金よりもワインの方が投機商品として魅力があるという。

5大シャトーのオーナーやマネージャーは、ワインづくりに適したボルドーの自然の恵みと先人たちの叡智と努力に感謝を惜しまない。一方で、これまでのワイン文化をともに育んできた欧米の顧客から、そうした文化より経済的価値観だけで押し寄せてくる新しい売れ筋顧客への対応も忘れない。

「ワインはフランスの魂」と評するジャーナリストは、表現しにくい奥深さを持ったその文化的価値を語ろうとする。ボルドーの高級ワインは、たんに経済投機の商品価値でしかなくなってしまうのだろうか。

©2012 Lion Rock Films Pty Limited

原題は’Red Obsession’と直截的な表現なだけに、経済的視点のみにとどまらない文化的余韻を残した邦題にほっとする。これからのワインづくりへの視点が、この邦題から読み取られることを期待する。

旧約聖書のノアは、生きものが滅んだ大洪水の後、最初にぶどう畑をつくり、ぶどう酒(ワイン)に酔いつぶれた人として記述されている。有史以来の大地の恵みであり、キリストによる贖罪の象徴としても用いられているワイン。ドキュメンタリーに登場する高級ブランドではないにしても、ワインがもつ芳醇な滋味を愉しめる庶民にも、興味を持たせてくれる作品ではある。 【遠山清一

監督:ワーウィック・ロス、デビッド・ローチ 2013年/オーストラリア/78分/原題:Red Obsession 配給:アットエンタテインメント 2014年9月27日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://www.winenohimitsu.com
Facebook:https://www.facebook.com/winenohimitsu2014/

2014年オーストラリア映画協会賞最優秀長編ドキュメンタリー賞、ドキュメンタリー監督賞受賞。2013年第63回ベルリン国際映画祭正式出品、第12回トライベッカ映画祭正式出品、第60回シドニー映画祭正式出品作品。