刑務所に収監されていた故人の記録を法務省まで捜しにきたジョン・メイ © Exponential(Still Life)Limited 2012

‘孤独死’という言葉があり、時おり報じられるニュースは、日本の世相を考えさせられる。だが、それは日本だけに限らず、高度に都市化した経済先進国にとっては、共通している課題でもある。人口は集中している都市だが、個人個人は互いも関心は薄く、コミュニケーションを持つことも難しさを覚えさせられる。そうした現代の世相にあっても、人間として生きていることは、どこかで他人と関わって来たことであり、関わり続けている。そのような人間の尊厳に目を向け、故人の想いに寄り添うことから学べる’生き方’があることを想い起させてくれる作品。

ロンドン市役所ケニントン地区民生係を務めるジョン・メイ(エディ・マーサン)。勤続22年だが妻子のいない44歳独身。仕事では、身寄りのない孤独死した人の遺族捜しや葬儀・火葬の手配も行う。故人を尊重し生前の想いに寄り添うジョン・メイ。故人の写真を見つけ、生前の宗教観や人生観を調べ、その人にふさわしい宗教での葬儀と葬式説教、故人の好きだった曲で葬送するなど。仕事は丁寧だ。故人の遺族や知人を捜して参列できるよう配慮し、来れなければ自分一人でも出席して見送る。

ある朝、自宅の向かいのアパートに住む男性が孤独死しているとの連絡を受けた。中庭を挟んで真向かいの部屋。ジョン・メイは、ビリー・ストークという名前さえ知らなかったことに少しショックを受ける。レコード盤はあったが、プレイヤーは売り飛ばしたのか見当たらない。幼い少女の写真を貼った古いアルバムと昔働いていたパン工場の写真などを持って職場に戻る。

だが、事務所に戻ったジョン・メイは、時間も費用も掛かる仕事ぶりを日ごろから快く思っていない上司プラチェット(アンドリュー・バカン)からリストラクションのための解雇を言い渡された。ビリー・ストークの件が、ジョン・メイの最後の仕事になった。与えられた時間は3日間。ジョン・メイは、仲間と写真に納まっているオーカムのパン工場を訪ねる。気難しくて短気なビリーだったが、休憩時間を5分間延長する交渉を承諾させるとその日に退職した。かつては親友だったそのチーフから、付き合っていた彼女がウィットビーの港町にいると聞いて訪ねていく。

浮浪者生活をしていて収監された記録を基に、アルバムの少女がビリーの娘ケーリー(ジョアンヌ・フロガット)で、南部のトゥルーローで犬のシェルターをしていることを捜し当てたジョン・メイ。すでに母親は他界し独り暮らしのケリーだが、母親と刑務所に訪ねたときケンカ別れしていたため、葬式に行くかどうか分からないという。

ジョン・メイが話す、幼い時に生き別れた亡き父親のことに耳を傾けるケリー © Exponential(Still Life)Limited 2012

短気で、荒くれ者だが、なにか人のためになることには不器用ながら懸命にチャレンジするビリー・ストーク。ジョン・メイは、ビーリーの知人らを訪ね歩き、その人柄が分かってくると自分の中の何かかが変わってきていることに気づく。毎日、規則正しく几帳面に仕事をしてきたジョン・メイとは、まったく違う人生を送ってきたビリー・ストーク。ジョン・メイは、自分のために購入して置いた特等の墓地の場所をビリー・ストークに譲る気持ちにまでなっていく。そして、思いもよらない結末。ハッピー・エンドではないが、ジョン・メイらしい人生の完成さが、いつまでも心に響いてくる。 【遠山清一】

監督:ウベルト・パゾリーニ 2013年/イギリス=イタリア/87分/原題:Still Life 配給:ビターズ・エンド 2015年1月24日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.bitters.co.jp/omiokuri/
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2013年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門監督賞/C.I.A.E. Award、Francesco Pasinetti Award最優秀督賞/Civitas Vitae Award。2013年レイキャビク国際映画祭最優秀作品賞/国際批評家連盟最優秀作品賞、2013年アブダビ国際映画祭最優秀作品賞受賞、2014年トランシルヴァニア国際映画祭観客賞受賞、2014年トロンハイム国際映画祭観客賞受賞、2014年エディンバラ国際映画祭英国映画における最優秀パフォーマンス賞(エディ・マーサン)受賞、2014年ロシアVOICES film festivalグランプリ・最優秀男賞受賞、2014年エレバン国際映画祭審査員特別賞ほか多数受賞。