© 2014 Gallery Film LLC and Ideale Audience. All Rights Reserved.

「一度でも来ると、ここが大好きになる」。美術館の特設展のマーケティング担当スタッフが語る言葉にうなづけるドキュメンタリー映画だ。’ドキュメンタリー’という現実を直視するだけの語感ではない。取材に応える職員、ギャラリーに熱く語る学芸員の働きぶり、痛んでいる名画を修復するプロの繊細な注意力と博識など名画に接する人々の感性に触れながら、監督とともにフクショナルな3時間のギャラリーツアーに惹き込まれていく。

ロンドンのチャリング・クロス駅近くのトラファルガー広場に建つナショナル・ギャラリー。閉館後の床掃除の音。朝、開館を待つ人々の行列。レオナルド・ダ・ヴィンチ、カラヴァッジオ、レンブラントらの絵画をじっくり見ながら物思いにふける人やスケッチする人など、観客の年齢層は老若男女ともに幅広い。
学芸員たちが、カーペットに座る子どもたちにレクチャーする姿の熱心なこと。顔に猫のようなペインティングしてきた子も真剣に聞き入っている。
ナショナル・ギャラリーは、1824年に逝去した銀行家ジョン・J・アンガースタインの所蔵コレクション38点を国が落札して、国立美術館の創立を宣言した。現在では2,300点を超える所蔵作品が常設展示されている。その親しみやすさだけでなく、素晴らしい芸術作品を集めることができたのは、かつて奴隷制度という悲惨な歴史的背景を持つっていることも、真摯に子どもたちに語っている。
作品鑑賞やデッサン教室、さまざまなレクチャーを愉しむ来館者の姿だけではない。数百年を経て損傷している作品の修復についての解説や特設展の企画会議、イベント会場づくりなど美術館の日々の活動も追っていく。

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常設展示やデッサン教室など国立ギャラリーとして無料で鑑賞し参加できるという。本作では、ダ・ヴィンチ展、ターナー展、ピアノリサイタル、変身物語テッツィアーノ展でのロイヤルバレー団(エドワード・ワトソン&リアン・ベンジャミン)とのコラボイベントの企画から準備、実演までの様子も追っている。
ナレーションはなく画家の名前など最小限のテロップだけ。断片的なショットが繋ぎ合わされていく感覚だが、美術館の存在意義やアートの必要性など美術館の全体像がジグソーパズルの完成画のように浮かび上がってくる。開館を待つ市民の人たちの穏やかな表情、モデルをデッサンする教室などギャラリーの人々のアートへの愛情が、市民を人生とつながるアートへと誘っている日常がうらやましく感じる。【遠山清一】

監督:フレデリック・ワイズマン 2014年/フランス=アメリカ/183分/原題:National Gallery 配給:セテラ・インターナショナル 2015年1月17日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.cetera.co.jp/treasure/
Facebook:https://www.facebook.com/NationalGalleryTreasure

2014年ヴェネチア国際映画祭栄誉金獅子賞受賞記念、第67回カンヌ国際映画祭監督週間出品作品。

*ナショナルギャラリー 英国の至宝竏? 映画公開記念講座(朝日カルチャーセンター)
笹山美栄氏(西洋美術史家、英国在住)を講師に、1月9日(金)13:00―14:30、朝日カルチャーセンター 朝日JTB・交流文化塾新宿教室(Tel.03-3344-1941、受講料(税込み)は会員 3,024円、一般 3,672円)にて映画公開記念講座が持たれる。内容は、ルネッサンスから印象派まで、時代を追ってこの美術館のハイライトが紹介される。詳しくは下記URLをご覧ください。
URL http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=271978&userflg=0