軍病院で治療を始めるジミー(左)とジョルジュ © 2013 Why Not Productions-France 2 Cinema-Orange Studio

現代の精神医療では、投薬療法での対処が進み、本作のようにじっくり時間をかけた対話療法によってクライアントの心の奥底にある心因を探るようなプロセスは望めないかもしれない。第2次世界大戦に出兵していたネイティブ・アメリカンが(本作では1948年当時の’アメリカ・インディアン’のまま表現している)、帰還後もPTSD(心的外傷後ストレス障害)に悩まされ、その治療に当たった文化人類学者で精神分析医との関係に心の絆がうまれていくヒューマンドラマ。
邦訳されてはいないが、文化人類学と精神分析学との融合に貢献した『夢の分析:或る平原インディアンの精神治療記録』(ジョルジュ・ドゥブルー著、1951年刊)の実話を原案に、心の問題に触れていくプロセスが丁寧に描かれており、人間の未知なる心の深層に介入することへの尊厳と畏敬を、あらためて想い起させてくれる。

モンタナ州に住むアメリカ・インディアン、ブラックフッド族のジェームズ[ジミー]・ピカード(ベニチオ・デル・トロ)は、第2次世界大戦が終結して帰還してから激しい頭痛や悪夢などさまざまな症状に悩まされていた。医者にかかっても原因は分からず、心配したジミーの姉はカンザス州トピカの軍病院にジミーを連れていく。
戦争による心因性後遺症は、当時の軍病院でも注目していた。ネイティブな’インディアン’であっても帰還兵は名誉ある勇士として治療に当たる。軍病院では、ニューヨークにいる精神分析医でハンガリー出身のユダヤ系フランス人ジョルジュ・ドゥヴルー(マチュー・アマルリック)をジミーの担当医として短期契約で呼び寄せる。
文化人類学者でもあるジョルジュは、かつてモハヴェ族の居留地で実地調査した経験を持つ。ジミーは、ジョルジュとの対話治療でしだいに心を開いていき、母との関係や同じ部族の婚約者と別れたことなど、自分の人生についても話し始める…。

婚約者との楽しかった過去を思い出すジミーだが… © 2013 Why Not Productions-France 2 Cinema-Orange Studio

チェ・ゲバラを演じて(「チェ 28歳の革命/39歳 別れの手紙」)カンヌ国際映画祭で優秀男優賞を受賞したベニチオ・デル・トロは、ジョルジュの対話療法のプロセスをとおして、ジミーの心の問題に触れられていく不安さや過去の出来事のカットバックなど、複雑な演技と表情を本作でもみごとに演じている。
一方で、ジョルジュ自身による性格分析的なシーンではないが、フランスから呼び寄せた恋人マドレーヌ(ジーナ・マッキー)の「あなたが海を越えて私に会いに来る?」と、自己本位なジョルジュの心を見透かしたような一言が興味深く耳に残る。ジョルジュの学者・医師のイメージとは遠い躁的ともいえる言動は、ジミーの不安定さのどこに琴線の触れるところがあったのか。確信を持ち、強い自分の中にある不安。それは本作に見入った者にも何かを気付かさるかもしれない。 【遠山清一】

監督:アルノー・デプレシャン 2013年/フランス/英語/117分/原題:Jimmy P.:PSYVHOTHERAPY OF A PLAINS INDIAN 配給:コピアポア・フィルム 2015年1月10日より(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://kokoronokakera.com
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2013年第66回カンヌ国際映画祭コンペティッション部門正式出品作品。