映画「トレヴィの泉で二度目の恋を」――老いても夢と恋心を失わずに生きる人生賛歌

© 2014 CUATRO PLUS FILMS, LLC

73歳の女性が、80歳の真面目で堅物の男性を振り向かせる恋愛物語。そう言ってしまうと脚本展開が見えてしまうかもしれないが、それでも老いと病の現実や家族との確執と和解という人生普遍のテーマがしっかり組み込まれているオシャレで豊潤滋味な作品。人生のゴールが間近だからこそ、夢と希望と愛情を失わずに生きることの喜びを教えてくれる。
家族から離れて自由気ままな独り暮らしを楽しむエルサ役のシャリー・マクレーンと7か月前に長年連れ添った妻を亡くしてマンションに引っ越してきたフレッド役のクリストファー・プラマー。2人のベテラン俳優が、じつに自然に演じていて惹きつけられ、爽やかに泣かされる。

エルサは、ときどき現実と夢の境目を彷徨っているかのように、虚言癖がある。フレッドの娘夫婦の車に衝突した時もフレッドの娘リディア(マーシャ・ゲイ・ハーデン)に平気でしらばくれる。エルサの長男レイモンドが用意した修理代の小切手も、自分は長年未亡人で自分の年金で5人の孫を養っていると嘘をつく。真に受けたフレッドはフレッドは、気の毒に思いエルサに小切手を返し、リディアには自分の現金を手渡した。
偏屈で無愛想と思っていたフレッドに意外な優しさを感じ取ったエルサは、なにかとフレッドの部屋を訪ねては話しかけ、公園の散歩に誘う。それが煩わしいフレッド。「凡庸に生きるよりベッドで寝ていた方がましだ」と言い、1日中TVを見ている。ついには「私は、生きる屍だ」と言い放つ。
エルザは、そんなフレッドに「あなたに生きる意味を教えてあげたい。まず踏み出すの、1歩、2歩、3歩ってね」と、持ち前の前向きさでフレッドとの距離を縮めていく。フレッドにもエルサに対して少し気持ちの変化が起きてくる。
1歩目は、お茶飲み話から。エルサは、大好きな映画「甘い生活」でヒロインのアニタ・エクバーグが、トレヴィの泉に入ってマルチェロ・マストロヤンニにラヴコールするシーンに憧れていることを熱く話す。トレヴィの泉へ行って恋を告白したいと夢見ているエルサ。
だが、エルサの孫娘の誕生パーティにフレッドが誘われた時、来るはずのないエルサの夫マックスがパーティに現れ、未亡人でない事も5人も孫はいないことも嘘だと分かってしまう…。

© 2014 CUATRO PLUS FILMS, LLC

シャーリー・マクレーンのデビュー作は、1955年の「ハリーの災難」。彼女のデビュー60周年記念作品としてアピールされている。本作は、2005年のスペイン=アルゼンチン映画「エルサ&フレト」のリメイク作品で、共にフェデリコ・フェリーニ監督の「甘い生活」(1960年)の懐かしいシーンが挿入されている。そのアニタ・エクバーグが、1月11日に83歳で逝去したことも本作との不思議な繋がりを覚えさせられる。恋心は、「甘い生活」のような若い世代だけのものではないのだろう。エルサによって恋心をよみがえらすことが出来たフレッドの穏やかな表情が、生きていることの大切さが輝いているようで心に残る。【遠山清一】

監督・脚本:マイケル・ラドフォード 2014年/アメリカ/97分/原題:ELSA & FRED 配給:アルバトロス・フィルム 2015年1月31日(土)よりBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://torevinoizumide.com
Facebook https://www.facebook.com/pages/トレヴィの泉で二度目の恋を/346792848827002