映画「みんなの学校」真鍋俊永監督に聞く――学校が変われば地域が変わる

監督プロフィール:まなべ・としなが 関西テレビ報道部ディレクター。長く報道カメラマンとしてニュース取材やドキュメンタリー撮影を担当。文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー賞大賞を受賞した番組も、映画としても本作は初演出作品。 © クリスチャン新聞

大阪市住吉区立・大空小学校の玄関上部の壁には、「みんながつくる、みんなの学校」という言葉が貼ってある。’すべての子どもに居場所がある学校’をめざす大空小は、発達障害や身体障害がある子などを対象にした特別養護支援学級と通常級を分けず、みんなが同じ教室で学ぶ。不登校児はゼロだ。学校、児童をサポートする地域の人たち。「’みんな’のなかには真鍋さんも入ってますよ」と木村泰子校長に言われたという真鍋俊永監督に話しを聞いた。【遠山清一】

↓ ↓ ↓ レビュー記事 ↓ ↓ ↓
映画「みんなの学校」 ――一人ひとりの自分らしさを引き出す’エデュケーション’

「みんながつくる、みんなの学校」づくりは、大空小学校が2006年に開校された当初から木村校長が抱き続けている目標だ。真鍋監督が取材・撮影したのは2012年4月からの1年間。当時の全校生徒は約220人で、そのうち特別養護支援の対象児童が30人を超える。とくに6年生は、10人以上と多い。
各学年は、2学級で編成。担任教諭は置かれているが、授業中に逃亡する子や目の離せない子どもも多いので木村校長や養護支援チームの先生たち、アシスタントティーチャーやボランティアらが学校全体を見ている。ドキュメントは、まさに席の温まる暇もない大空小の日常、先生と生徒との関係や地域の人たちとのかかわりが気取らない目線でつづられていく。

木村校長(左)は、常に子どもと目線をあわせてしっかり話す。 © 関西テレビ放送

 

子どもの心に育つ
‘やり直し’の決意

「みんながつくる、みんなの学校」づくりは、大空小学校が2006年に開校された当初から木村校長が抱き続けている目標。特別養護教育チームの先生、アシスタントティーチャーらは、木村校長とともに校内の児童全体に気を配り、小まめにシェアリングをしている。木村校長は、’みんな’とは誰のことかと折りあるごとに子どもたちにも問い掛ける。その問い掛けに子どもたちも応える。勉強が分からなくて困っている子に気づけば、教えたり助け合うシーンがいくつも描かれていく。
「大空小には、PTAはなくて、’大空小学校SEA’という生徒の保護者に限らずに地域の大人たちが参加できる’サポート’システムがあって、代表も’会長’ではなく’キャプテン’と呼ばれています。教師や職員の子どもたちとの関わり方だけでなく、何のためにあるのか、よく分からない制度的なことは、一度解体して、納得できるように新しく作り上げていく学校なんですよね」と真鍋さんはいう。
「自分がされていやなことは人にしない、言わない」ことが、大空小のたった一つの約束だ。悪戯が過ぎたり、ケンカなどでこの約束を破ると、子どもは自主的にやり直し室(校長室)へ行き、木村校長と向き合って話し、子ども自身が納得したらその内容を反省文に書いて退室する。木村校長は「また、やってしまうかもしれないけど、’やり直し’を決意した一瞬は真実なんです。この一瞬一瞬の決意がどうつながっていくかが、子どもの可能性なんです」という。

‘やるんだ’という気持ちが
どこかたどり着く場所へ導く

大空小には基本的に参観日がない。いつ学校に来て授業や校内を見て回ってもかまわない。子どもたちの自主的な考えや思いやりを育て、学力を引き出す教育。地域ぐるみの理解とサポートを受けて大空小のような’みんなの学校’づくりは大阪だから出来ていることなのだろうか。
「出来ない理由を探したら、出来ないでしょうね。やるか、やらないかでしょう。もちろん簡単なことではないと思いますが、’やるんだ’という気持ちを持ち続ければ、やれることを1つでも考えてやってみるでしょう。そうやって試していけば、いつかたどり着ける所があると思います。大空小は、地域の子がだれでも通える普通の公立小学校ですよ。きっと出来た理由は、あるんですよね。。出来ない理由は、やりたくない人が考えることで、やりたい人は出来ることを考えればいいと思います」
「僕たちが大空小を取材撮影したのは、開校7年目でした。学校、生徒、地域の人たちが6年間掛けてたどり着いた所を、僕たちはおもしろい学校だと思ったり、学ばされたりしたことを垣間見たのがこのドキュメンタリーです。大空小が今後どうなっていくのか僕にはわかりませんが、大空小がこういう学校でいてほしいという思いは込めてこの映画を作りました」。

ときには生徒同士のケンカも起こる。その原因は放っておかず、きちん生徒自身の理解を確かめ、「やり直し」を求める。 © 関西テレビ放送

成長を引き出すのが教育

大空小は、学力調査の結果は全国の平均値より上にあるという。だが、木村校長は、「100できる子が100のままの結果でいたら、その子は成長できなかったといえる。でも、10しかできない子が11になっていたら’1’だけであってもその子の成長を助ける教育ができたということでしょう」と取材に応えている。それは勉強だけに限らない。運動会や合奏のシーンなどでも、分からなところや出来ないことをそのままにしておかない生徒たちや先生が、出来ない子の内側から引きだす姿に教えらられる。
本作のオフシャルサイトに掲載されている予告編は、’映画館で「学校参観」してみませんか’のキャッチコピーで終わる。学校教育の在り方という枠を超えて、自分が住んでいる地域と自分ということにも気づきを与えられる’学校参観’になるだろう。

監督:真鍋俊永 2014年/日本/106分/ドキュメンタリー/配給:東風/2月21日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト:http://minna-movie.com
Facebook:https://www.facebook.com/minnamovie