キャリー(左)はジャレマイアたちの職探しに奔走させられる © 2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.

大家族で暮らす村に突然やってきて、村人らを無差別に銃で殺りくし、建物に火をつけ家畜を奪い去っていく兵士たち。戦争、内戦は理不尽な悲劇の嵐を巻き起こす。スーダン内戦で孤児となり、徒歩で数年かけてケニアの難民キャンプまで逃れた子どもたち。’ロストボーイズ’と呼ばれた3600人の内戦孤児たちが、第三国定住協約によってアメリカへ移住した実話に基づいている。肉親を殺害され、将来に希望を持てない難民キャンプでの暮らしから文化も価値観もまったく異なる国に移住した孤児たち。だが、互いに思いやり、分かち合う難民孤児らの生き方は、現代の国際社会が喪失している、ともに生きることの現実と新しい世界への扉の開け方を教えられる。

1983年、スーダン内戦。北軍の兵士たちが村を焼き払い愛する肉親を殺されたテオ、マメールとアビタルの兄妹たち。生き残った子どもたちは、安全だと聞いていたエチオピアを目指す。アビタルは、形見のように聖書を大事に持っていく。だが、エチオピア国境も敵兵がいて危ないと教えられ、ケニアへ向かう一行に加わった。その一行には、兵士にされるの嫌って逃げてきたジェレマイアとポールもいた。幾度も危険な目に遭いリーダー格だった年長のテオは、みんなを守るために敵兵の前に身をさらし、どこかえ連れ去られていった。4年かかってマメールたちは、ケニアの難民キャンプたどり着いた。

初めてジプシーの詩人として知られる’パプーシャ’(ヨビタ・ブドニク)。その出生のシークエンスも印象的。2010年。雪のちらつく夜。ショーウインドウの少女の人形に見入る若い女性。彼女は一人の女子を産み、’パプーシャ’(ジプシーのマロニ語で人形の意)と名づける。その名を聞いて女呪術師のは、その赤ん坊は恥さらしな人間になるかもしれないとつぶやく。

13年後。マメール(アーノルド・オーチェン)は、傷病者テントで介護の手伝いをしており、将来は医者になりたいという夢を持っている。だが、難民キャンプの暮らしに、将来の夢を追いかける環境は何もない。そんな内戦孤児たちに、アメリカに移住できるチャンスが訪れ、マメールと姉アビタル(クース・ウィール)、ジェレマイア(ゲール・ドゥエイニー)とポール(エマニュエル・ジャル)の4人はJFK空港に降り立った。ところが、規定によって女性のアビタルだけが東部の都市で暮らすことになる。納得できないままマメールたちはカンザスシティへ。

職業紹介所のキャリー(リース・ウィザースプーン)が、手提げ袋一つでやって来たマメールたちを空港で出迎えた。定住支援センターが用意したアパートに案内し、ドアの前で別れ車に乗ってもマメールたちはただ茫然とキャリーの車を見ているだけ。ドアの鍵を開けることさえ知らないのだ。仕方なく、部屋に入れ電気のスイッチ、ベッドや風呂の使い方などを教えて帰ろうとするキャリーに、マメールは独身で自活するキャリ―を憐れむように「あなたに優しい夫が見つかりますように」と励ます。

職探しも苦労するキャリー。初対面の挨拶でほほえむというマナーも知らない。ようやく見つけた職も、まだ食べられる食品を毎日捨ててホームレスにあげることも許されないことが理解できずることがジェレマイアはスーパーを辞めしまう。機械器具の会社に勤めたポールは、適当にやるという空気が読めず、仕事仲間から騙されてドラッグを吸わされ、生活も乱れていき、マメールやジェレマイアとの生活もぎくしゃくしてくる。

生き残った家族アビタルとの暮らしを取り戻したいマメール。生活文化や価値観の大きな違いに戸惑いながらも懸命に生きようとする3人に手を焼きながらも、キャリーは’ロストボーイズ’らの生き方にしだいに関わらされていく。

テオ(中央)をリーダーにポール(右)、ジェレマイアたちはアメリカの暮らしに馴染もうとするが © 2014 Black Label Media, LLC. All Rights Reserved.

マメールには、テオが兵士らに連れ去られ殺されたかもしれないのは自分に責任があるという負い目を引きずっていた。ところがある日、テオは生きているかもしれない手がかりを見つけたマメールをキャリーは熱心に手助けする。国際情勢は、何かが起これば様々な支援に大きな影響を及ぼす。そうした難民支援の厳しい現実がまじめに描かれているのに、重くならずカルチャーギャップの大きさをユーモアと前向きさに変えてしまうキャリー役リース・ウィザースプーンの存在感と確かな演技力に引き付けられる。

だが、難民キャンプでの経験者をキャスティングしたフィリップ・ファドラー監督の伝えたいテーマはぶれることなく展開していく。アフリカで生きのびているかもしれない兄のテオ。兄弟を助けるために自分は何を捧げることができるだろうか。テオに新しい世界への希望を与えることを決断したマメールの’良い嘘’に、恩返しと自己犠牲の気高く美しい生き方があることを見せられた。 【遠山清一】

監督:フィリップ・ファドラー 2014年/アメリカ/110分/映倫:G/原題:The Good Lie 配給:キノフィルムズ 2015年4月17日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.goodlie.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/グッド・ライいちばん優しい嘘/624798207647164