映画「アラヤシキの住人たち」――小谷村真木の四季に生き、育み合う“協力社会”の原点
「競争社会ではなく、協力社会を」の理念の下、宮嶋眞一郎さん(91歳)が、自由学園教師を退職して1974年に長野県小谷村立屋集落で創設した「共働学舎」。現在は、次男の信さんが立屋と真木の2か所の代表を務め、農作業しながらキリスト教精神と人間観を背景に、障がいの有無や能力の優劣で分け隔てることなく暮らしている。自由学園で宮嶋眞一郎さんの薫陶を受け、共働学舎ともかかわってきた本橋成一監督、真木での四季の暮らしをとおして共働学舎の原点を見つめたドキュメンタリーは、どのような人でも分け隔てなくつながりあい、’自労自活’できる豊かさをみせてくれる。
― 春 ―
白馬三山を望む小谷村真木。街から1時間半。車道はない。峠を越え谷川を2つ渡ってたどり着く。40年前、廃村になった古い集落を引き継いだ真木共働学舎。大きな建屋を修復した新屋敷(アラヤシキ)と呼ばれる一軒に、ここの住人たち全員が共同生活している。
朝、一番にアラヤシキから出てきたえのさんが、まずタバコを一服吸う。えのさんは、活舌に難があるものの矢沢永吉の歌うのが大好きだ。宮嶋 信さんに呼ばれてヤギの世話担当の瑞穂さんがアラヤシキからようやく出てきた。くにさんは、百葉箱を36年間記録し続けている。美佐紀さんは信さんの妻。台所をしきり、子どもたちもここで育てた。
子どものころから真木に来ていた宗さんは、屋根葺きや農業を学んでいてみんなから頼りにされている。妻のいずみさんと冬に生まれてくる赤ちゃんとの生活のために支度している。
アラヤシキは、居たいだけ居ていいのが基本。住人になって数年のリョウマくんややまけん。大学の実習で真木共働学舎の暮らしを体験した早紀と茶髪のりなの2人は、卒業して1年の予定で来ている。広いアラヤシキの掃除や家事、農作業の手伝いなど出来ることをしながら自然の中での暮らしを楽しんでいる。毎食時、「日々の聖句」を読み上げて「いただきます」。大盛り飯を食べていた新人のエリヤくんは、来て数日後に音楽フェスタに行ったまま帰って来なかった。
みんなで田植えする時季になった。やまけんがいきなりカンツォーネを歌いだした。
― 夏 ―
見学者の訪問が多いシーズン。朝のラジオ体操の人数も多く、にぎわう。キャンプに来た子どもたちは、特設のドラム缶風呂に大はしゃぎだ。
夏の雨は強い。真木への山道が流されてしまう。雨がやむと、信さんがリーダーになって石の置き場所を指示し真木への小さな道を守る。
― 秋 ―
収穫の秋が来た、みんなで稲刈り作業。活発なりなが稲架に上り、えのさんが放り上げる稲束を受け取る。いつもストライクに投げ込むえのさんを褒めるりな。ヤギの種付けのシーズン、ヤギの風太郎と雌のパンナの動きも落ち着かない。
晩秋の収穫祭。バーベキューパーティでえのさんがギター弾きながら矢沢永吉の「時間よ止まれ」を歌う。信さんたちはチェロの二重奏を弾く。静かに冬の訪れてくる。
― 冬 ―
真木の冬支度。くにさんは、大切な百葉箱を台に乗せ下駄をはかせる。通常の3倍近い高さになった。それでも丁度良い高さにまで雪は積もる。雪おろしも大変だが、みんなではしゃぎながらの作業は楽しそうに見える。
パンナのお腹がふっくらしてきた。リョウマくんと瑞穂さんが、お腹をさすりながら、「たぶん一匹かな」「雄かな雌かな」ととりとめもなくヤギ談義。命が芽吹く春が近い。
― また、春 ―
連絡しないまま居なくなったエリヤくんが、真木に戻ってきた。喜んで受けれるムードの中で、宗さんが胸にあるわだかまりを話す。信さんが「ここは戻ってきたいときに戻れる場所じゃないの?」と冷静な気持ちで話す。いつになく宗さんと信さんは真剣な表情で意見を交わしている。エリヤくんは、今までの経験といま戻りたいと思った気持ちを正直に吐露する。
パンナが産気づいた。少し難産な様子。心音が聞こえにくいことに信さんも心配そう。それでも生命は力強い。無事に子ヤギは生まれた。
リョウマくんが、真木を旅立つ朝。やまけん、くにさん、エリヤくんたちが見送る。あいさつした後、リョウマくんは一度も振り返らずに山を下りていく。
宗さんといずみさん夫妻にも元気な男の子が生まれた。アラヤシキのメッセージボードから早紀と茶髪のりな、リョウマくんたち山を下りた人たちの名前が消えて、宗さんといずみさんの下に生まれたばかりの旺志郎ちゃんの名前が書き込まれた。4月、晴れ渡った大空の下で宗さんといずみさんの結婚式が行われた…。
現在、共働学舎はNPO団体として北海道、信州、東京など5か所に発展している。北海道の寧楽牧場では養豚、新得牧場で作られるチーズは世界一の評価を得た実績を持つ。それぞれに’自労自活’の営みをもって暮らしている。本橋監督は、「アラヤシキの農業中心の時間の流れでの暮らしには、自由学園で眞一郎先生が教えていた原風景があると思う」という。便利で手間いらずになっている都会的な生活。そのなかで「ほんとうの豊かさを、置き忘れてきたのではないか」という視点で、いま立ち止まって考えてみるべき人間がつながり合う暮らしが、このドキュメンタリーから静かな気づきとして語り掛けられている。 【遠山清一】
監督:本橋成一 2015年/日本/ドキュメンタリー/117分 配給:ポレポレタイムス社 2015年5月1日(金)よりポレポレ東中野にてロードショー。
公式サイト:http://arayashiki-movie.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/arayashikimovie