アンドレアスは、一人息子の突然死を目の当たりにし思いもかけぬことを決断する。。 ©2014 Zentropa Entertainments34 ApS & Zentropa International Sweden AB

深夜、ふと目覚めると自分たち夫婦の赤ちゃんが息をしていない。突然のことに気が動転し錯乱状態に陥る妻。妻をなだめすかし、とにかく病院へと自宅を離れるが、途中、ネグレストされている赤ちゃんとの置き換えを思いつく…。日常の平常心であれば取らないであろう判断と行動を、スサンネ・ビア監督は二組の夫婦の生活と心理描写をみごとに描きながら「あなたならどうしましたか」と、人の心の弱さと脆(もろ)さを深く衝き、問い掛けている。

敏腕刑事のアンドレアス(ニコライ・コスター=ワルドウ)は、愛する妻アネ(マリア・ボネヴィー)と乳児の息子アレクサンダーと平和な家庭を築いている。夜泣きする日が続いているアレクサンダーにアネは軽い育児ノイローゼの様子があり、息子を寝かしつけるため夜中でも散歩するアンドレアス。

ある日、家庭内暴力の通報を受けたアンドレアスと親友で同僚刑事シモン(ウルリッヒ・トムセン)は現場に駆けつけた。保釈中のトリスタン(ニコライ・リー・カース)は、パートナーのサネ(リッケ・メイ・アンデルセン)を遣って2人を追い返そうとする。構わず、部屋に入ったアンドレアスとシモンは、散らかり放題の室内と浴室に糞尿まみれの服を着たままの乳児ソーフスを発見する。ソーフスがアレクサンダーと同じくらいの月齢であることにアンドレアスは愕然とし、薬物依存らしいトリスタンとサネを蔑むような視線で見る。

その夜。いつもは夜泣きするアレクサンダーが静かにしている。揺り籠の中を見ると様子がおかしい。すでに息をしていない。息子の突然死に錯乱するアネ。アンドレアスが警察に届けようと冷静に諭すが、強行に拒否し、ずっとそばに置くと言って聞かない。なだめすかして、どうにかアレクサンダーの遺体を抱いたアンドレアスは、アネのためにソーフスと置き換えて育てようと思いつく。トリスタンのアパートまで躊躇するアンドレアスは、シモンの携帯に掛けてみる。だが、離婚した心の傷を酒で紛らわしているシモンは酔いつぶれていて出ない。アンドレアスは、アレクサンダーの遺体をソーフスと置き換えて連れ去った。

だが、アネは「アンドレアスではない」とつぶやくだけで、ソーフスに馴染まない。サネもトリスタンに、赤ちゃんの遺体はソーフスではないと言い続けるが、保釈中のトリスタンは幼児虐待死と疑われることを恐れ、ソーフスが誘拐されたことにする事件を企む…。

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幼い自分の子どもを失った二人の母親。その悲しみと喪失感の深さが丁寧に描かれる。そして、アネが突然自死したことから、物語はサスペンスフルに急展開する。

妻アネのためにと独断で思い付きを行動に移すアンドレアス。保釈中のトリスタンは薬物依存の負い目もあって事件をつくり上げる。遺体が自分の子ではないと言い続け希望を失わないサネ。一人ひとりが、置かれている状況で真に頼れるものがなく暗い闇のなかへと彷徨っていく。強い悪意をもって企てるような大げさな仕掛けはない。それだけに、いつ我が身に起きてもおかしくはない怖さ。だが、怖さだけで終わらせず、愛情が希望を失わせず道を切り開くと語っているようなラストの情景が明日への光を感じさせてくれる。 【遠山清一】

監督:スサンネ・ビア 2014年/デンマーク/スェーデン語/102分/映倫:G/原題:En chance til 配給:ロングライド 2015年5月15日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.yurikago-movie.com/
Facebook:https://www.facebook.com/pages/真夜中のゆりかご/803912383016989