インタビューに答える6人の建築家たち。左から磯崎 新、ピーター・アイゼンマン、伊東豊雄、安藤忠雄、レム・コールハース、チャールズ・ジェンクス。 ©Tomomi ISHIYAMA

20世紀、戦後日本の建築の歩みと現在、そして未来を5人の建築家と1人の建築理論家にインタビュー取材したドキュメンタリー。5人の建築家とは安藤忠雄、磯崎新、伊東豊雄、レム・コールハース、ピーター・アイゼンマンであり、1人の建築家はチャールズ・ジェンクス世界的な日本人建築家3人は、建築について門外漢の人にも名前は知られているであろう。建築に携わる専門家には愉しく刺激的であり、建築について素人な向きにも戦後の建築史と時流のキーワードが語られ入門編としても構成されている興味深い作品に仕上げられている。

1982年、米国シャーロッツビルで開かれた「P3会議」。フィロソフィーをもつ建築家として知られていた磯崎新は、この会議に若手建築家の安藤忠雄と伊東豊雄を伴い世界の舞台へと誘った。30年後、建築家から映画の世界へ転身した石山友美監督は、「P3会議」に関わった10人に及ぶ建築家、建築言論人をインタビュー取材し、今日の状況と未来のついて四つの章建てで、ディスカッションさながらの構成と展開でまとめている。

<第1章:70年代に遡って>戦後の焼け野原から暮らしと住まいを立て直し1964年の東京オリンピックなど高度経済成長へと昇っていく。70年大阪万国博覧会を幕開けに、2度のオイルショックから不況へ、公共事業や大型プロジェクトは大手ゼネコンに独占され、若手建築家らは小住宅の設計にその才能を生かしていく。
<第2章:日本のポストモダン>チャールズ・ジェンキンスは、ミースなど機能主義的な近代主義建築に代わる新しい時代の建築表現をポストモダン建築として建築言語化し、日本人若手建築家らの小住宅や商業ビルなどの建築デザインにも着目した。
<第3章:コミッショナープロジェクト>1980年代後期から細川護煕熊本県知事により「くまもとアートポリス」プロジェクトが起ち上げられコミッショナーとして全権が与えられた磯崎新が、日本と世界の建築家たちを指名し「熊本らしい田園文化圏の創造」を目標とし建築デザインが建造された。このプロジェクトは、その後も20年以上継続され伊東豊雄も第3代コミッショナーを務めている。
<第4章:バブルが弾けて>バブル期が崩壊し、経済主導で効率重視の建築が主流になると、建築家が社会で果たしてきた役割は大きく変容していく。建築家は、もはや必要とされていないのだろうか? 建築家そして建築評論家、ジャーナリストたちは、それぞれに専門家としての職能と機能の危機的状況を個々の表現で語っていく。

日本のモダニズム建築代表作の一つに挙げられる二番館(設計:竹山実、1970年。東京・新宿) ©Tomomi ISHIYAMA

今日のグローバル化は、’建築家不在の建築物を建て上げる’と言われるまでに、効率性と均質化を極めている。3・11後の被災都市デザインにもかかわる伊東豊雄は、その土地に育まれてきた伝統文化や自然と人々の暮らしの関わりを考慮しないような復興行政の方策には’暴力的なものさえ感じさせられる’と憂う。経済性と効率化を重視してきた建築は、木組みや建造装飾の職人育成をないがしろにし、職人不在の様相を呈している。

かつて、焼け野原から人間の創造性と暮らしを考察し建築をデザインしてきた建築家たち。グローバル化した現代社会では、ある種の閉塞感に覆われている。近代主義からポストモダンへ、そしていま、歴史は繰り返されグローバリズムからローカリズムや人間の個性と文化の創成と関わる建築の未来が問われている。 【遠山清一】

監督:石山友美 2015年/日本/73分/英題:Inside Architecture -A Challenge to Japanese Society 配給:P(h)ony Pictures、配給協力:プレイタイム 2015年5月23日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト:http://ia-document.com/
Facebook:https://www.facebook.com/kenchikuno.hanashi

2015年第14回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展正式出品作品