映画「かぞくへ」--血がつながっていなくとも家族の絆は紡ぎあえる
この作品を観て、たとい血がつながっていなくとも家族の絆は紡げると心から想う。児童養護施設で育ち両親を知らない男性と、その男性との結婚を決意しているが母親の期待には応えられないため心の葛藤を強いられている彼女。互いに自分で乗り越えようとする揺らぎの中に、児童養護施設でいっしょに育った親友と久しぶりに再会。漁師をしている親友に仕事の誘いをかけたことから思わぬ事件に巻き込まれていく二人。誰もが良かれと思い行動していること、率直に打ち明けられない何かが結婚への準備を混乱させていく。身近に起こりえる出来事が素直になれない思いから出た言葉の綾生み、物語をリアルに展開させていく演出が心に届いてくる。家族への憧れと執着が、“かぞくへ”と表記されている味わいが心にくい秀作。
【あらすじ】
児童養護施設で育った旭(松浦慎一郎)は、親の顔も知らない。ボクシングジムでトレーナーをしながらどうにか生計を立てていて、同棲中の佳織(遠藤祐美)との結婚式が迫っている。ボクシングジム練習会員の喜多(森本のぶ)が、レストラン開業のため鮮魚の仕入れ先を探している話を聞き、同じ児童養護施設で育った親友の洋人(梅田誠弘)を紹介した。いまは結婚し妻地元・五島列島で漁師をしている洋人が、喜多と事業の話を詰めるため上京してきた。久しぶりに再会した旭は、佳織には黙っていたが、幸せな思いとともに結婚して家族を持つことへの不安を洋人に打ち明ける。旭の心情が分からないでもない洋人だが、「心配いらん、俺ができとうとやけん」と旭を励ます。
佳織にも好きな旭と早く結婚式を挙げたい理由がある。一つは、かわいがって育ててくれていた祖母の認知症が進行しつつあるため、しっかりしているうちに花嫁姿を見せてあげたい感謝な思い。もう一つは、収入が不安定な旭との結婚を母親(瀧マキ)が反対していて旭と会おうともせず、佳織に見合い話を持ってくること。母子家庭を切り盛りしてきた母親が、佳織と妹を家族として大切にしている気持ちは理解できていても、母親との言葉のやり取りは佳織の心に刺さってくる。
多喜との仕入れの話が決まり、地元へ帰って漁船も新しくして鮮魚を送り始めた洋人から、旭に電話が入った。奥歯にものが挟まったような物言いで多喜の様子を聞こうとする洋人。鮮魚は出荷しているのだが多喜からの入金が2か月無いという。多喜がジムに顔を見せないのは新規事業で忙しいためだろうと思っていた旭は、自分の口利きで洋人に大きな迷惑をかけたことに責任を感じた気を探し始める。だが、佳織との結婚への準備の手伝いはおろそかになっていく。そして多喜の居場所を見つけた旭は、佳織がようやく母親との会食をセットアップした約束をの日を破って多喜を追っていく…。
【見どころ・エピソード】
主役を演じた松浦慎一郎の実体験を原案として春本雄二郎監督が脚本を書き起こしている。旭と洋人の友情を超えているような絆の芯の強さと心情が何とも素朴で心を動かされる。佳織の家族の情景も互いに家族を想う母娘の心のすれ違いがなんとも身近で説得力がある。家族を護ろうとする心情と、これから家族を作っていけるのだろうかという不安。それは出自によるものというより、互いに向き合い互いの絆を紡ぐことへの想いを抱き続け合えるかどうかなのかもしれない。 【遠山清一】
監督・脚本:春本雄二郎 2016年/日本/117分 配給:「かぞくへ」製作委員会 2018年2月24日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。
公式サイト http://kazokue-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/kazokue/
*AWARD*
2016年:第29回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門公式出品作品。第23回フランス ヴズール国際アジア映画祭審査員賞・NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)・ギメ東洋美術館審査員特別賞受賞。第14回ソウル国際アガペー映画祭Re-Awakenimg of The Asia Agape Films 公式招待作品。第17回ドイツニッポンコネクション2017ニッポン・ヴィジョンズ部門審査員スペシャル・メンション受賞。