映画「father カンボジアに幸せを届けたゴッちゃん神父の物語」
ベトナム戦争以後も長く内戦の混乱が続いたカンボジアの難民14人を里子に迎え、同国の各地に19の小学校建設に尽力してきた後藤文雄神父(カトリック吉祥寺協力祭司、撮影当時86歳)のドキュメンタリー映画。戦時中、空襲で家族を亡くしたつらい経験は、カンボジア内戦の戦争孤児、難民援助に手を差し伸べていく。戦争の悲惨さが心に染みついている子どもたちに、どのようにして未来への希望を抱いてもらえるか。難民たちの里親となり教育援助に尽力していく姿に、他人(ひと)を大切にし、寄り添っていくことの力強さを目の当たりにする。
空襲で家族を亡くした経験から
カンボジア難民に手を差し伸べる
物語は、気さくな人柄から“ゴッちゃん”の愛称で親しまれている後藤神父(撮影当時86歳)が「これが最後かもしれない」と言ってカンボジアへ旅立つパーティから語り始める。新潟県長岡市にある浄土真宗の住職の次男として生まれた“ゴッちゃん”。長岡空襲で母親と2人の妹弟を亡くした経験が今日までに至る“巡礼の出発点”になり、戦後、クリスチャン女性との初恋がきっかけでカトリック教会に通い、後に、東京・上野駅で目の当たりにした戦災孤児たちの姿が自分と重なり、相談した長岡の教会の神父の勧めもあって神父として献身する道へと進む。
インドシナ難民の受け入れを支援する定住促進センターから相談を受けたことから難民支援活動にかかわっていく。1981年からカンボジア難民の子どもたち14人(男10人、女4人)を里子として受け入れて育ててきた。また1996年から現在進行形でカンボジアの19の町や村に小学校を作り、運営されている。
最初に里子に迎えたメアス・ブン・ラー、チア・ノルと従兄弟のチア・サンピアラ、身売りの危機をゴッちゃんが両親を説得して短大まで学業支援したソンナム・ダッチら4人との出会いと彼らの人生が重点的に語られている。
里子たちは“ゴッちゃん”神父を「お父さん」と呼んで慕う。なかでもラーとの出会いは印象的だ。ポル・ポト派に両親が連れ去られたラーは少年兵として訓練された。15歳の時、里子になって来日したラーは声が出ない、笑顔のない子だった。定時制高校を卒業して写真学校に入学したが、慣れない環境もあってしだいに引きこもり、“ゴッちゃん”神父にようやく心の奥底に秘めていた苦しい過去を告白できた。その心の重荷から解放されたラーは、出会ってから30年経った今も、「父母の帰りを、ただ待って待って、ずっと待っているんです」と再会を信じて小学校づくりに励んでいる姿は心に迫る。
教育が子どもたちに未来を開く
戦争への深い嫌悪感を持ちながらもカンボジアの復興と未来へ向かって学校づくりと支援に尽力する“ゴッちゃん”神父と里子たち。上映後のあいさつで“ゴッちゃん”神父は「戦争はやってはいけない。皇民教育で育ち軍国少年だった私と、里子たちも同じだった。戦争ですべてを失い深く傷ついた心に『人を愛しなさい』と言っても抽象的過ぎて伝わらないと思う。私は“愛しなさい”ではなく、『人を大切にしなさい』と言っています」と語っていた。“人を大切にする”ことの細いつながりが日本とカンボジアを結んでいる確かな絆となって描かれているドキュメンタリーだ。【遠山清一】
監督:渡辺 考 2018年/日本/95分/ 配給:新日本映画社 2018年4月7日(土)~4月20日(金)新宿武蔵野館にて2週間限定モーニングショー、4月21日より吉祥寺COCOMARU THEATERほか全国順次公開。
公式サイト http://father.espace-sarou.com/
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