映画「いろとりどりの親子」--“障害”を多様性と受容できた親子たちのいろとりどりの幸せ
子どもや孫の誕生に際して“五体満足であるように”“普通の子どもであればそれで十分”など健常児での誕生が当り前であるかのように待ち望む風景が目に浮かぶ。だが、健常児と障害児の境目とは? 障害は病的なもので治すべきものなの? そのような忌避感や隔ての壁への意識を解きほぐし、さまざまな“障害”を多様性として受容し合い、新しいコミュニティと文化を築く道を指し示しているドキュメンタリー。本作に登場する6組の親子たちが、いろとりどりの幸せを紡ぎとる道のりを語り明日への光を見出そうとしている。さまざまな苦難を経てたどり着いている現在ある表情が、この世に生かされていることの喜びと温もりを感じさせてくれる。
ノンフィクションのベストセラー
『Far from the Tree』を映画化
本作の原作の著者アンドリュー・ソロモンは、自分がゲイであること受け入れられなかった両親を赦すために原作を書いたと語り始める。幼少期から周囲の少年たちとは趣味も関心も異なることは自分でも認識していた。成長してセックスセラピーと称する怪しげな場所にも通い“普通の男性”になろうと努力もしたが苦痛が募るばかり。自分は変われないことを悟りカミングアウトしたとき、家庭を持つことが第一と考える両親のショックは大きかった。27歳のときアンドリューの母親が他界。母に受け入れられていないままの死別に、アンドリューは大きなショックを受け次第に鬱を深めていく。だが、ろう者のコミュニティー取材を請け負った。多くのろう者が健常者の両親から生まれ、親は子どもたちを治療しようとするが、子どもたちは思春期になると自身のコミュニティを発見することに築いていく。そこから始まった取材は、およそ300カップルの親子を取材し10年かけて900ページにおよぶルポにまとめ上げた。原作の中からLGBT、うつ病、ダウン症、低身長症などアンドリュー自身と5組の親子の物語が語られている。
ダウン症のジェイソン。エミー賞を受賞した脚本家の母親エミリーはジェイソンが生まれてダウン症と診断された時、「愛情が湧く前に施設にやる方がいい…」と医師に勧められたという。「愛情ならとっくに湧いている。何カ月もお腹の中にいたのよ…」と笑う。エミリーと夫は、ダウン症を理由に息子を捨てることはしないと約束し子育てに取り組んだ。読み書きもできないだろうといわれていたが、両親の不断の努力と教育でジェイソンは、ダウン症の子でも学習できることを実証した。3歳から母エミリーとセサミストリートに出演しダウン症を持つ人の唱道者として全米に知られる親子になった。41歳になったジェイソンは、同じダウン症を持つヤニーヴとレイモンドの二人と共同生活している。
自閉症のジャック。2歳ぐらいまでは特段の違いは見られなかったが、次第にしゃべらなくなり周囲の状況や音に対しても反応しなくなる。診断は自閉症。しかも聴覚は普通の人には聞こえないノイズが聴こえるほど敏感になり常にイヤホンをつけて防御している。自閉症の診断が下ったとき、母のエミリーは自分を責め続けた。それでも夫婦で言葉を離せないジャックの治療法を探し続ける。ある日、文字カードを1文字ずつ選択して単語を特定し、ジェックが伝えたい文節を抽出する根気の要る療法士と出会い、親子は初めて意思の疎通ができた。ジャックが選んだ言葉は“僕は頑張っている。僕は頭がいい”。ジャックは家族の会話を聞いて理解していたが、自分の意志を伝える方法がなかっただけだった。実際、学校ではいじめにもあうが、成績はオールA。
低身長症のロイーニ、リア&ジョセフ夫妻。ロイーニは23歳。非常に珍しい型の低身長症。家族はロイーニをフォローし協力的だが、家族で低身長症を持っているのはロイーニだけ。彼女の心情までは家族もなかなか理解でない。ロイーニは、恋もしたいしデートもしたい。だが出会いには恵まれない。初めて低身長症の年次大会に参加し、ようやく自分と同じ境遇の人たちと知り合い、仲間に出会えた幸福感を経験した。ロイーニが参加した主催団体で役員を務めているリア。彼女は4年の交際を経て、同様に低身長症を持つジョセフと結婚した。ジョセフはサンディエゴ州立大学の助教授を務めている。二人の願いは子どもを授かること。それも低身長症の子どもであれば最高だという。リアはいう。「私たちのような症状を“治してやろう”だなんて、個人的には大反対よ。治すところなんてないわ」。リアに妊娠の兆しが現れた…。
心が壊れてしまったトレヴァー。トレヴァーは16歳のとき、道で出会った8歳の少年を殺害した。精神分析などいくつもの方法でトレヴァーが殺害行為に及んだ理由を調べたが明確な診断は下されなかった。「彼の心は壊れている」という以外。3人の子どもたちの長男として愛情を注いで育ててきた両親には大きなショック。弟妹たちにも愛情豊かに育てても事件を起こしてしまう実証を家族になかに観ているだけに将来への大きな不安をぬぐい切れない。だが、父親のデレクはいう。「でも、家族の絆はより深く強く結びあっている」と。
しあわせの形は無限
に存在している
本作には、さまざまな“障害”を肌や地域文化と同様に、さまざまな“違い”を持つ子どもと親たちの困難を乗り越えてきた物語がリアルの語られている。さまざまな“違い”を直視し、アイデンティティ―(個性)として受容できた親子たち。“障害”は“欠陥”や“治さなければならない”ものではないことを、6組の家族の風景をとおして「しあわせの形は無限に存在している」と語るアンドリューの言葉が実感させてくれる。 【遠山清一】
監督:レイチェル・ドレッツィン 2018年/アメリカ/93分/ドキュメンタリー/原題:Far from the Tree 配給:ロングライド 2018年11月17日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
公式サイト http://longride.jp/irotoridori/
Facebook https://www.facebook.com/movie.longride/
*AWARD*
2018年:東京都推奨映画選定作品。 2017年ニューヨーク・ドキュメンタリー映画祭出品作品。