映画「サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所」ーー教会のLGBT支援プログラムがモチーフのヒューマンドラマ
自分の性と“性自認”の違和感に悩む人や異性を異性をノーマルに愛せないなど“性的指向”が同性に向いている人、自分の性自認にクエスチョンな人など“LGBTQ”（レズ・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・クエスチョニングあるいはクィア）の人々の相談に乗ったり食事やコミュニティの場を提供する支援プログラム“サタデイ・チャーチ”を実施するある教会を舞台に、トタンスジェンダーに悩む一人の黒人青年が“自分らしく生きる”ことに悩みながらも前を向いて歩んでいこうとする姿を描いたヒューマンドラマ。黒人や有色人種の性的マイノリティーを中心に描いているが、自らが納得できる“自分らしく生きる”ことへの苦悩を、家族や教会がどう受け止め、寄り添うのかという普遍性を持ったテーマが伝わってくる明確な視点とストーリー展開に真摯な傾聴を促される作品。
【あらすじ】
黒人の高校生ユリシーズ（ルカ・カイン）は、ニューヨーク市ブロンクス区で暮らしている。軍人だった父親が亡くなったばかりで、シングルマザーになったアマラ（マーゴット・ビンガム）は、ユリシーズと弟エイブ（ジェイリン・フレッチャー）との生活を守るため夜勤のアルバイトを入れて忙しない。家を留守にしている間は叔母のローズが子供たちの面倒を見てるのを手伝っている。
ユリシーズには、自分の性の認識について悩みを抱えていた。女性のように“美しくなりたい”という願望を抑えきれず母アマラのストッキングを盗んだり赤いハイヒールを履いたりする趣味があった。そうした性的指向はアマラやローズから何度も注意され、学校の生徒たちからも“おかま”と呼ばれいじめられている。ローズは、教会の礼拝に通う熱心な信徒で、ユリシーズの先行きを心配し礼拝奉仕に申し出るよう半ば強制的に勧めている。
母親のハイヒールを履いていたことをエイブに告げ口されローズにきつく叱られたユリシーズは、耐えられなくなって外出し、クリストファー・ストリートに在るトランスジェンダーが集まる川辺に行く。彼らの話を聞いているうち、エボニー（MJ・ロドリゲス）に声をかけられ、仲間のヘヴン（アレクシア・ガルシア）、ディジョン（インドゥヤ・ムーア）、レイモンド（マークイス・ロドリゲス）らを紹介され、食事を提供してくれるサタデーナイト・チャーチ（土曜の夜の教会）へいっしょに行く。
エボニーたちに案内されたサタデーナイト・チャーチは、キリスト教の教会が土曜日の夜だけゲイなど職に就けず居場所のない“LGBT”の人たちを支援しているプログラム。ボランティアリーダーのジョーン（ケイト・ボーンスタイン）が、彼・彼女たちが抱えているさまざまな悩みにも相談に乗っているようだ。食事の提供だけでなく、おしゃべりしたりダンスのレッスンもあるサタデーナイト・チャーチで、ユリシーズははじめて家庭や社会で味わう孤独感を分かち合える触れ合いに、心が満たされていく。やがてレイモンドに誘われて出かけた“ヴォーグ・ナイト”の華やかなダンスの競演に魅せられていくユリシーズは、出演するための第一歩にと黒いハイヒールを購入し自宅のクロークに仕舞う。だが、叔母のローズがユリシーズの留守中に彼の部屋からハイヒールを見つけると、悔い改めの祈りを強要し激しく叱責する。耐えきれなくなったユリシーズは、家を飛び出しその日は帰らなくなかった。ユリシーズの性的指向の変化に心を悩ませていたアマラだが、彼の“自分らしさ”とはを自ら問う苦悩にも気づいていたが…。
【見どころ・エピソード】
実際に教会で実施されているLGBT支援プログラム“サタデー・チャーチ”でボランティア活動に参加していたデイモン・カーダシス監督は、LGBTの人たちの多くがホームレスとなり薬物障害に苦しみ、“からだ”を売らなければ生きていけない情況を目の当たりにする。家族や周囲に理解されず、見放されたような情況や有色人種のLGBTの存在を社会に伝えようとさらに取材し、自ら脚本を書きおろした。“知らない”ままの無理解は、偏見を差別を生み、先行きを案じて良かれと思い強要することも“さばき”になりかねない。実際に行なわれている“サタデー・チャーチ”の実践と理解しようと努める家族の存在は、どのような人にとっても“希望”というエールを送り続ける大切な存在であることをこの物語は語っている。 【遠山清一】
監督・脚本：デイモン・カーダシス 2017年/アメリカ/英語/82分/映倫：PG12/原題：Saturday Church 配給：キノフィルムズ 2019年2月22日（金）より新宿ピカデリーほか全国ロードショー。
公式サイト http://saturday-church.com/
Twitter https://twitter.com/Saturday_Church
＊AWARD＊
2017年：オースティンゲイ・レズビアン映画祭最優秀長編作品賞受賞、メルボルン映画祭最優秀新人監督作品賞受賞、サンフランシスコLGBT映画祭新人監督作品賞受賞、LAアウトフェスト長編作品優秀男優賞（ルカ・カイン）受賞ほか多数。