1979年、白浜バプテスト基督教会の江見太郎牧師は、自殺者の絶えない三段壁に「いのちの電話」の看板を設け、以後20年間の保護件数は672件を数えました。この教会で江見牧師の活動を見ながら育った少年は、小学校の卒業文集に将来の夢を「牧師になりたい」と書きました。

 その少年がこの本の著者、藤藪庸一牧師です。99年に江見牧師の後継牧師となり、2018年10月までに905人の自殺志願者を救助してきました。居場所のなくなった人々と共同生活をし、16年にはNPO法人「白浜レスキューネットワーク」を設立して自立支援のための弁当屋「まちなかキッチン」を始めました。地域に根ざして、「はじめ人間自然塾」や「放課後クラブ・コペルくん」を運営し、中高生向け放課後クラブ「夜コぺ」から生活支援寮「エジソンハウス」の構想が生まれ、自殺予防のために全寮制の学校を夢見るまでのことが、ありのまま綴(つづ)られています。その働きは12年にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介され、今年はドキュメンタリー映画「牧師といのちの崖」が公開されています。

 藤藪牧師は語ります。「神がくれた良心が働いたから」、「人の信頼を得るには、二つの道がある。一つは、無償の愛を示すこと。そして、もう一つは、小さな約束を守ること」、「解決策が見えなくても、そばにいることをやめなかった。(中略)一貫してやり抜いたことは、その人を諦めないことだけだった」。亜由美夫人と子どもたち、スタッフと教会員、そして保護した人々が協力者となって神の家族の営みが続いており、その助け合いの中に人の生きる意味があり、神のみこころは表れる。「金銀は私にはない」との覚悟と献身、自然体に敬服します。

 東京基督教大学は、「Stand in the Gap 破れ口にキリストの平和を」をコンセプトに大学改革を進めていますが、卒業生である藤藪牧師と亜由美夫人、古畑普伝道師はお手本です。

評・山口陽一=東京基督教大学学長
あなたを諦めない 自殺救済の現場から』 藤藪庸一著 いのちのことば社 1,512円税込  B6判

 

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