クリムトの「接吻」 (C)Belvedere, Wien

19世紀末オーストリア帝国ウィーンを代表する画家グスタフ・クリムト(1862年~1918年)とクリムトに才能を認められ支援を受けていたエゴン・もシーレ(1890年~1918年)の没後100年を記念する企画展などが日本でも開催されている。本作は、東京都美術館で開催中の「クリムト展 ウィーンと日本1900」(4月30日~7月10日まで)との特別タイアップ上映作品。皇帝フランツ・ヨーゼフ1世が治めていたオーストリア=ハンガリー帝国の栄華から衰退期に外観を描写するのではなく人間の内面性をモチーフに描く象徴主義への芸術・美術改革を展開したクリムトと、クリムトに評価され支援を受けながら象徴主義・表現主義の影響を受けながらも強烈な個性的絵画スタイル究めていったエゴン・シーレの芸術と時代性を紐解くドキュメンタリー。日本画などアジア的な感性を捉えながら華やかな技法で“黄金の時代”と表現されるクリムトの芸術。クリムトを尊敬し、より人間の生と死への不安・慟哭を描くシーレ。産業革命後の社会構造と人間の価値観・倫理観が揺れ動いていく第一次世界大戦前夜、19世紀末ウィーンの生への情念と死への重たい不安が二人の芸術をとおして今日の情況との繋がりが透けて見えてくる。

クリムトとシーレの時代を
読み解くコメンテータたち

1918年10月31日午前1時、エゴン・シーレがスペイン風邪に罹患して亡くなったことをナビゲータ役の俳優ロレンツォ・リケルミー(日本語版ナレーションの声:柄本 佑)が、18世紀の啓蒙社会が第一次世界大戦で踏みにじられ、死への不安に包まれた情況から語りはじめる。

グスタフ・クリムト (C)Archiv des Belvedere, Wien, Nachlass Ankwicz-Kleehoven

クリムトが創設したウィーン分離派(1898年)は、「時代には芸術を、芸術には自由を」のモットーを自分たちの展示施設・分離会館の入り口に掲げ古典的な様式の保守的な芸術に個性的な表現様式への自由を宣言した。美術、建築、音楽など総合的な芸術運動を目指すウィーン分離派とウィーンのブルジョア社会の実相をエリック・カンデル(神経科学者)、ジェーン・カリア(美術史家)、アルフレート・ヴァイディンガー(美術史家)ら幅広い芸術関係のコメンテータが現代との関わりを読み解いていく。クリムトとシーレの芸術を核として彼らのパトロン、モデルたちとの関係や音楽家グスタフ・マーラ、心理学者ジークムント・フロイトはじめ当時のウィーンから見つめていた世界の潮流。それはクリムトとシーラが開いた新世紀への扉、「それはエロティシズムと、孤独、不安、混乱の世界」への予見を表現するものでもあった。

爛熟したウィーンのブルジョア社会と芸術の外面性を剥がし、人間の生への情念と死への不安を、華美な金箔の輝きで性の深い淵の奥に在る死を見つめようとしたクリムトと、繊細な筆致で肉体をドキュメント的エロティシズムに突き詰め不安と死への怖れを見つめるシーレ。いま現代のグローバル化のなかで個人主義が究められつつある中で復興しつつある極右化と分断化されつつある世界。クリムトとシーレが描いた新世紀は、不確実さのなかにある息苦しさへの道標のようにも思える。  【遠山清一】

監督:ミシェル・マリー 2018年/イタリア/イタリア語・ドイツ語・英語/90分/4K/映倫:G/ドキュメンタリー/原題:Klimt & Schiele – Eros and Psyche 配給:彩プロ 2019年6月8日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。
公式サイト http://klimt.ayapro.ne.jp
Facebook https://www.facebook.com/映画クリムト-エゴンシーレとウィーン黄金時代-634615620311278/

*「クリムト展」特別タイアップ企画 クリムト、シーレ没後100年記念*
クリムト展 ウィーンと日本 1900
2019年4月23日(火)~7月10日(水)まで上野公園・東京都美術館にて開催中
公式サイト https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_klimt.html