世界の分断、紛争の火種は、ますます増加し消えそうにない。国際機関、NGOなどの取り組みに教会も協力してきた。これらの活動の必要は増すだろう。

 しかし、何が達成されれば和解なのか。それを聖書と実践から問うのが本書だ。デューク大学神学部和解センター共同ディレクターで、アフリカ人カトリック司祭と社会活動家の共著。カトンゴレ氏は、カトリック司祭、大学教員で、ルワンダ大虐殺、政治、暴力と神学、エイズなどの問題に取り組む。

ライス氏は、人種、貧富を越えた共同体をつくる教会ミニストリー「カルバリーの声」に従事。2004年「世界福音宣教のためのローザンヌ・フォーラム」では「和解」の分科会を担当した。

  著者たちが教会に問う姿勢は、個人の心の救い「のみ」や、繁栄を目指すような「逃避」ではなく、スキルや戦略による「消火活動」でもない。和解はすべてのキリスト者が取り組むべきものであり、「一歩さがった」姿勢が求められるという。それは現実逃避ではなく、現実世界と神の壮大な計画をつなげていくことである。注意すべきことは、和解は人間の手で「つかみとる」(知恵の木の実をつかんだように)ものではなく、「神の贈り物」であるという理解だ。

 一般に言われる多様性の尊重、共生では終わらず、さらに踏み込んだ「交わり」へ誘う。このとき、和解の担い手となるのは、教会のはずだが、地上にある教会自身にも「潔白」とは言えない破れがある。そのため、8章ではリーダーシップについて丁寧に語る。

 和解は早急な説明や行動では実現しない。祈り、特に嘆きの祈りが重要だという。その嘆きを共にする訓練(5章)を特に重視している。本書は米国、アフリカ、東アジアの長い旅の記録を整理したものでもある。その中に日本のキリスト者も関わっていた。

 ルイス氏は、キリスト者学生会が関わる国際福音主義学生連盟IFES東アジア地区卒業生大会のため、8月に来日する。20代が多いこの大会に期待しつつ、本書によって教会の将来を展望したい。(クリスチャン新聞編集部

『すべてのものとの和解』
エマニュエル・カトンゴレ、クリス・ライス共著、佐藤容子、平野克己共訳 日本キリスト教団出版局、2,160円税込、四六判
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