「ディアスポラ宣教学」提起から10年 記念サミット開催 神の宣教は世界で“動く”

生まれた場所と異なる国に移動し、暮らす人々「ディアスポラ」は、全世界規模で年々増加してきた。「ディアスポラ宣教学」は、ローザンヌ運動を通して推進され、「グローバル・ディアスポラ・ネットワーク」(GDN)などの働きが広がっている。これらの働きの10年の振り返りと今後を展望する「ローザンヌ・ディアスポラ・バーチャル・サミット」がオンラインで8月26、27日に開催され、全世界から千人にも及ぶ人々が参加した。新型コロナウイルスCovid-19は、人々の移動を止めたが「神の宣教は世界で動いている」という希望を世界で共有した。【高橋良知】

同サミットでは、事前収録された映像配信に加え、Zoom、専用アプリ、SNSなどでディスカッションを実施。活動報告、証し、メッセージ、パネルディスカッションなどの内容で、世界各地のディアスポラ宣教の状況や展望が話された。
ディアスポラについては、従来から世界で様々な取り組みがあったが、2010年の第3回世界宣教会議(南アフリカ・ケープタウン)への準備が進められる中で「ディアスポラ宣教学」が打ち出された。その定義は「生まれた土地ではないところに住む人の間における神の救済的宣教を理解し、それに参画するための宣教学的枠組み」だ。その聖書的、神学的解説と動向は『収穫のために散らされた人々 ディアスポラという世界的動向を理解する』(邦訳、日本ローザンヌ委員会訳、東京ミッション研究所発行)などに詳しい。
11年にはGDNを組織化、15年の世界フォーラムほか、各地で宣教会議が続き、各地の神学校でも専門講座ができるなどしている。19年には世界的な研究拠点として、グローバル・ディアスポラ研究所が、米国ホィートン大学ビリーグラハム・センターに設置された。
同サミットの準備委員の一人、ゲーリー・フジノさんは「米国の日本人教会で奉仕したことがあるが、ディアスポラになると人々は福音にオープンになる。この10年で難民は二倍に増えた。欧州では、アラビア語圏からの移民などで回心者が増えている。宣教活動の難しい国の福音宣教においても有効」と話した。
今回のサミットの内容を踏まえ、「コロナ禍のような災害が収まった後には、人々の移動がさらに増えるという予想もある。米国では、すでに引っ越しが増加した。クリスチャンとしてやるべきことは何か。準備はできているか。世界中の教会から千人が参加し、意識を共有した。大きな希望がある」と話した。
参加者の鎌田泰行さん(キリスト者学生会[KGK]主事)は、「地域教会の働きが、ディアスポラ宣教で大切」と再認識した。「証しで紹介されたアフリカ系移民の教会では、教会こそ包括的宣教の担い手という意識が強かった。パラチャーチという専門的な働きだけで担うのではないということを実感している。2016、2023年の日本伝道会議では『ディアスポラ宣教協力プロジェクト』を担当しているが、地域教会での取り組みも応援したい」と話した。
KGKでは留学生伝道・海外交流を担当。留学生や外国のルーツがあるなど二重のアイデンティティーを持つ人たちを意識する。「彼らに福音を伝える必要があるとともに、彼ら自身が宣教の担い手でもあります」「留学生伝道について、ある日本人学生が『自分のできることに限界がある』と述べていたところ、別の主事が『学内グループに来てくれるように祈ることはできるよね』と励ました。実際祈り始めたとき、留学生が来始めた。神様に用いられやすくなることが大事。ディアスポラの働きに参与することを求める祈りが広がると良い」と勧めた。
飯田仰さん(日本同盟基督教団国外宣教総主事)は、二つのことが印象に残った。一つは「Motus Dei(move of God)」(神の動き)という概念をもとにしたディアスポラ宣教。「人や物資の流動が活発になり、世界と社会が大きく変遷していく中、日本からも多くの方が海外へ行き、現地に住み生活をする。また海外から多くの方が来日し、日本で生活し、教会形成をしている。それがさらに活発化されてきた(コロナ禍で今はそれがストップしているが)。そこに神様の動きを見てとるということを、今後もさらに意識して考えたい」と述べた。
もう一つは中国の動向。「『一帯一路』政策によって多くの中国の方が欧州やアフリカ大陸に移住している。今後の動向を注視する必要がある。多くの中華圏の方が日本で生活する。今後の福音宣教において、中国と中華圏の教会及び兄姉たちがどのように用いられていくのか、私たちも祈りつつ見守り、協力できることは何かを模索していく必要がある」と語った。
日本の教会ができることを二つ挙げた。一つは祈り。「コロナ禍だが、できることはひたすら祈ること。世界の教会のために、そして動いておられる神様が人々をこれからどのように導かれようとしているのか、私たちはますます祈り、応答する必要があります」
二つ目は、教会堂を外国の人々の礼拝のために貸すこと。「彼らの共通の課題は、礼拝のための場所がないこと。日本の教会がさらに開かれ、礼拝の場所を提供することができたら、さらに宣教が広がることと思う。私は人生の半分を海外で過ごしてきたが、礼拝の場所を現地の教会や兄姉が提供してくださり、大変助けられた。日本にいる多民族の皆さんは日本人の救いのためにも熱心に祈っている。そのことを覚えつつ、日本の教会の祝福のためにもさらに交流と協力が進められることを願わされた」と話した。
日本福音同盟(JEA)宣教委員会異文化宣教ネットワーク部門は、国外の日本語教会や国内の外国語教会との宣教の具体的な協力を目指して活動している。同委員の永井敏夫さん(J.Clay Mission Network)は、「ぜひ世界の日本語教会のために祈り始めてほしい。国内の外国語教会についてもまず顔を合わせるところから始めたい」と言う。「コロナ禍で国内の外国人は、仕事がなくなるなど大変な状況。困ったら助け合うということを自然な関係でできるといい。外国語教会のエネルギッシュな礼拝のスタイルに触れて、日本のクリスチャンも元気を得てほしい。そのためにはまず、きっかけが必要。JEAが橋を架ける役割りを果たせたらと思う」と話した。