展示室で田淵さん

 

教会建築などを多く手掛ける建築家の田淵諭さん(多摩美術大学環境デザイン学科教授)の退職記念展「光と祈りの建築展」が11月14日から東京・八王子市の同大学アートテーク展示室で始まった(30日まで。19、20、27日は休館)。

30以上の教会堂の事例が図面、模型、写真などの資料、エッセイとともに紹介され、展示室全体もダイナミックに構成されていた。会場のアートテーク自体も田淵さんの設計。同大学キャンパスの整備計画にも中心的にかかわってきた。関連展示も含め、今回の展示の模様を伝える。 

 

関連インタビュー→  「光と祈りの建築」を回顧 田淵諭・多摩美教授 退職記念展開催2022年11月13日

 

「光と祈りの建築展」は礼拝堂に入る感覚を体験できる様々な工夫がこらされている。

 

展示室入口からブースが伸びる

 

ブース奥には三浦啓子さんのステンドグラス作品が

 

展示室入口から、一直線にブースが伸び、奥のステンドグラスに至る。ブースには田淵さんが欧米、中東などの教会堂を訪ねたスケッチやエッセイが並ぶ。ステンドグラスは、田淵さんが設計した多くの教会堂を飾った、三浦啓子さんの作品だ。

 

フルゴスペル・純福音市原教会のブース

 

日基教団・九段教会の模型と写真(背面右)

 

4つの展示室各部屋では、壁面、中央台に教会堂の写真、礼拝堂の内部を見られる模型、などが並び、巡礼を楽しめる。

吹き抜けの大部屋の角には、日基教団・中渋谷教会礼拝堂を大写しにした写真が貼られ、実際に礼拝堂の中にいるようなスケール感がある。

 

日基教団・中渋谷教会の模型と大型パネル写真

 

30以上の会堂の実例は、それぞれの地域性、教会の信仰、予算や土地の条件、などによって多種多様だ。デザインの素案から、計画案、ペンの書き入れのある図面、予算変更による設計修正案などからは、会堂建築の様々なプロセスをたどれる。

事例にそえられるエッセイでは、出会った牧師たちの人柄や神学からの気づき、信徒たちとの信仰のふれあい、など様々な思い出がつづられていた。

「バザーを繰り返すなどして、予算を満たした」「教会堂の最上階に牧師館を置く、あるいは礼拝堂の上は天であってほしい、といった相反する条件に設計者が答えを出す」「震災を体験し、防災、環境を意識した」など様々な教会のドラマも感じられた。

 

日基教団・世田谷中原教会礼拝堂の椅子と説明ブース

 

日基教団・世田谷中原教会のように、椅子の形状から礼拝堂のインスピレーションを得たという事例もあり、同教会ほか、いくつかの礼拝堂の椅子のレプリカも展示されていた。

 

学生が行きかう窓辺に、直島キリスト教会の模型

 

日基教団・直島キリスト教会は、田淵さんの基本計画・設計をもとに、50人以上の学生が分担してデザイン、制作をしたプロジェクトとなっていた。

様々な現代建築があり、瀬戸内国際芸術祭の会場でもある直島(香川県)は、「アートの島」として知られる。同教会堂はキリスト教の歴史や聖書の物語をアート作品とともに紹介する体験型教会堂として設計された。この教会堂の模型は、キャンパスを行き来する美大生たちの目に入るガラス壁面に設置された。

 

田淵さんが深めてきた建築思想を項目ごとにまとめたパネルも、読みごたえがある。各項目冒頭には聖書の言葉が引用され、教会堂史、教会史、礼拝学を踏まえ、自身の経験とともに説明が展開する。

「教会建築について」のパネルでは設計者の役割、教会のアプローチ、玄関、聖壇家具、礼拝堂の形、方角、音響、コロナ禍などについて述べられた。

「礼拝堂空間と光」では、人々の要望だけでなく、神に応答する大切さ、光の取り入れ方、窓や開口部などの細部などが述べられた。

 

光にこだわり続けた田淵さんだが、同パネルでは、次のように述べて今後の教会建築への展望を語る。

「自分に課した『光』のテーマは、奥が深くてまだまだ掴(つか)みきれません。今回はしっかり掴んだかなと思ってもスルッと抜けてしまいます。これは実際の光を手で掴めないことにも似ています。けれど、これからも光にこだわりながら、礼拝堂に入った時に、神からのメッセージが光を通して伝わるような礼拝堂をつくっていきたいと願っています」

 

前回のインタビューにあった通り、学生、会堂建築を検討する教会、教会建築を志す建築家の卵に向けられた充実した展示となっている。

 

「坂の多い大学」 関連展示から

 

展示会場のアートテーク。田淵さん設計

 

多摩美術大学八王子キャンパスは、周囲に新興住宅地、大型ショッピングセンターが立ち並ぶが、まだまだ緑も残る起伏に富んだ丘陵地に立つ。キャンパス内の高低差は40メートル以上ともいう。

多摩ニュータウン建設とともにキャンパスは拡張され、1994年にはキャンパス全体を構想設計する「八王子キャンパス設計室」が発足した。ここに田淵さんは中心的にかかわり、現室長を務める。

キャンパス東門から北西に伸びる軸線、これに直行する中央広場とアートテーク前を結ぶ軸線の交点が十字路となり、学生の交流を促している。

今回アートテーク1階では、田淵さんの展示との合同展として、僧侶で庭園デザイナーの枡野俊明教授の退職記念展「禅と日本庭園」も開かれている。さらに2階では「多摩美術大学八王子キャンパス展 坂に建てる―八王子キャンパスの半世紀」も開催中だ。各展示あわせて見ることで、地域性や伝統といったことを考えていけるだろう。

展示の詳細はhttps://kankyou.tamabi.ac.jp/honne/1001から。

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