「光と祈りの建築」を回顧 田淵諭・多摩美教授 退職記念展開催
展示模型を前に田淵教授
数多くの教会建築を手掛けてきた建築家の田淵諭さん(多摩美術大学環境デザイン学科教授)の退職記念展「光と祈りの建築展」が11月14日から30日まで、東京・八王子市の同大学アートテーク展示室で開催される。実現した30の教会設計、産学共同案、コンペ案、スケッチなどをまとめて展示する。田淵さんは「これだけ教会建築を集めた展示は日本では珍しいと思う。すべて手の内を明かすので、学生のみならず、会堂建築を検討している教会、教会建築を志す建築家の卵などに、ぜひ見てほしい」と勧める。その見どころとともに、教会と建築について聞いた。【高橋良知】
取材日、多摩美八王子キャンパスの設計室前には、展示のための模型が並べられ、学生たちが仕上げ作業に没頭していた。15分の1スケールの教会堂は、幼児の背丈ほどになり、ボリューム感があった。展示ではさらに照明が当てられ、光の意匠を楽しめる。
§ §
1952年生まれの田淵さんが建築家を志すようになったきっかけは、64年の東京オリンピック。「丹下健三が建築した国立代々木競技場などの造形がすごいと思った。さらに大阪万博で、様々な建築を見たことも後押しになった」
初めて手掛けた教会堂建築は所属する日基教団・小金井教会だった。祖母の代から同教会につながり、田淵さん自身も付属の幼稚園に通っていた。中高生時代から教会を離れがちになっていたが、建築家として事務所を開き、時間に余裕ができると、再び足を向けた。やがて老朽化した小金井教会の会堂、幼稚園の改修・建て替えを任されるようになった。
旧会堂の天井は低く、暗い雰囲気だった。しかし「屋根裏に上がると、瓦屋根の隙間から光が室内にもれていた。それがとても美しかった」と話す。新しい会堂では屋根組をあらわして、光を取り入れ、ゆったりとした空間に仕上げた。「会堂建築の最初から光を意識していたのだなと思う。光はナマモノ。時々刻々と変わっていく。その瞬間をしっかりととらえることが大事です」
様々な教会の牧師、建築委員会の人々に触れた。「与条件を満たし使いやすく美しい空間をつくるだけでなく、聖なるものをどうつくり得るのか、聖霊に満ちた空間をどうつくるかが真の課題」(『教会堂建築 構想から献堂まで』新教出版社)と考えるようになった。技術や感性だけではなく、教会史、教会堂史も学ぶようになった。
外光がやさしく注ぐ日基教団・大宮教会の礼拝堂。今回の展示チラシ(記事下部)の写真は同教会の外観
聖なる空間と地域性探求
「戦後、キリスト教会は、開拓がどんどん進み、座敷でもどんな場所でも礼拝をしてきた。一方で、聖なる空間をどうつくるかも大事なこと。教会堂は、食堂でも、講演会場でもない。御言葉が語られ、サクラメントが執行される場。聖なる空間を感じさせるしつらいが重要です」。こだわってきたのが「光」だ。「光には二種類ある。御言葉と聖霊により、内面を照らす光、外部から照らされ、賛美が満ちる空間の光。空間にも旬がある。朝日がどう入るか。その光をどう切り取るか。いつも考えさせられます」
会堂建築にあたって勧めるのは、「メッセージ性」だ。「会堂はそれぞれの教会の信仰告白だと思う。建物が伝道になります」
「19世紀以降、欧米では単なる様式のコピーではない会堂の在り方がとらえ直されてきた、、、、、、
( 2022年11月20日号 掲載記事)