インタビュー:G・ポゴシャン駐日アルメニア大使--トルコのアルメニア人迫害を描いた映画「消えた声が、その名を呼ぶ」を観て
今年4月、EUの欧州議会では150万人が犠牲になったともいわれる100年前のオスマン・トルコ帝国下でのアルメニア人迫害を大虐殺(ジェノサイド)と改めて決議し、哀悼とともにトルコとアルメニア両国に和解をすすめるよう表明した。この事件をテーマにしたトルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督作品「消えた声が、その名を呼ぶ」が、12月26日(土)より全国順次公開される。祖父が、この作品と同時代に迫害を逃れて亡命したというグラント・ポゴシャン駐日アルメニア共和国大使に鑑賞後の感想などを聞いた。 【遠山清一】
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100年前、実際に起こったオスマン・トルコ帝国下の
アルメニア人迫害モチーフにトルコ系監督が映画化
--日本人は、戦争時の苦しかった体験をあまり語りませんが、おじいさまはいかがでしたか。
ポゴシャン どの民族の人でもあまり話したがらない事柄でしょうね。でも、数回、話してくれました。この事件の悲劇は、当時ほとんどのアルメニア人が、命からがらいろいろな国へ逃れなければならなかったことです。日本に逃れてきた人たちは、渋沢栄一が設立したアルメニア人救済日本委員会によって助けられました。この作品は、悲劇的な出来事そのものより、家族は守らなければならないという強い気持ちをコアに描いています。それは、いまもアルメニア人が強く持ち続けている思いです。
--ナザレットは、マルディンではアルメニア使徒教会(アルメニア教会)の信徒として生活していますね。だが、キューバでは、礼拝に誘われても行きたくないと答えています。彼の信仰の変化をどのように思いましたか。
ポゴシャン アルメニアは、世界で最初にキリスト教を国教にした国です(301年)。世界中に散らされたアルメニア民族にとってアルメニア教会との関りはとても深いですし、アイデンティティになっていると言えるでしょう。その関係は日本の神道に近いと思います。どこかの教会の信徒ですかと聞かれたら「いいえ」と答えますが、クリスチャンですかと聞かれれば、もちろん「はい」と答えます。ナザレットは信仰を捨てたというよりも、あまりの苦しさに多分、神のことは聞きたくない心境だったのでしょう。
なぜジェノサイドが起こるのか
考える切っ掛けになってほしい
--日本ではあまり知られていない歴史的大事件がテーマの作品ですが、日本の人たちに伝えたい言葉はありますか。
ポゴシャン この作品のファティ・アキン監督が、トルコ系移民(ドイツ)であることは、とても大きいと思います。アルメニア人は、トルコ人を恨んでいる訳ではありません。あのジェノサイドは当時の特異な体制の支持者らによって進められた悲劇です。だが、なぜ現代社会の中でもいろいろな地域でジェノサイドが起こり続けているのだろうか。この作品を見ていただき、そのことを考える切っ掛けになればと願っています。
--ありがとうございました。
◇◇◇本作のあらすじ◇◇◇
1915年、第一次大戦下のオスマン・トルコのマルディン。アルメニア人鍛冶職人のナザレットは、妻ラケルと双子の娘たちと幸せに暮らしていた。ある夜、憲兵隊がやってきてナザレットらアルメニア人の男たちを強制連行して行った。収容所での強制労働の日々。そしてある朝、男たちは縄でつながれ谷底へ連れていかれ次々と処刑された。だが、ナザレットを処刑しようとしたメフメトが一瞬ためらったため、声は失ったが一命をとりとめた。アレッポまで逃れたナザレットは、かつて弟子人だった男と再会し、娘たちが生きていることを聞き、再び生きる希望を持った。レバノンの孤児院、結婚してキューバへ行ったという情報、そしてアメリカへ…。かすかな情報を頼りにナザレットの旅が続く。
監督:ファティ・アキン 2014年/ドイツ=フランス=イタリア=ロシア=ポーランド=カナダ=トルコ=ヨルダン/138分/映倫:PG12/英題:The Cut/ 配給:ビターズ・エンド 2015年12月26日(土)より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
公式サイト http://bitters.co.jp/kietakoe/
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