マヤ系先住民の娘マリア (C)LA CASA DE PRODUCCION y TU VAS VOIR-2015
マヤ系先住民の娘マリア (C)LA CASA DE PRODUCCION y TU VAS VOIR-2015

中央アメリカで北部はメキシコとベリーズ、南部をエルサルバドルとホンジュラスの国境に挟まれた格好のグアテマラ。いまも高地山岳地帯には、マヤ文明の流れをくむカクチケル語を使うマヤ系先住民族が生活している。スペイン統治領の長い歴史のなかで土着の信仰はカトリックの影響の色濃く染まりながら暮らしのなかに息づいている。一方で、山の向こうのある“自由の国”アメリカへの憧れと“自分らしく”生きることへの渇望は、(原題の)火山の地熱のように若者たちの心を湧き立たす。グアテマラに生まれ幼少期を過ごし、フランスとイタリアで映画づくりを学んだハロイ・ブスタマンテ監督は、マヤ人の少女とその母親の生きざまをとおして、今もさまざまな差別と偏見を内包するグアテマラを描いている。

【あらすじ】
火山のふもとにあるマヤ人小村。17歳のマリア(マリア・メルセデス・コロイ)は、小作農で暮らしを立てている父マヌエル(マヌエル・アントゥン)と母フアナ(マリア・テロン)の3人家族。フアナはマリアを伴い火山の祈り場で、娘の幸せを願い一家が守られていることを大地と風と水そして火山に感謝する。家畜の世話、作物の手入れなどかいがしく働く母娘。

父親のマヌエルは、借りている土地の持ち主でコーヒー園の主任をしているイグナシオ(フスト・ロレンツォ)とマリアの婚約が調い喜んでいる。イグナシオは妻に先立たれ、3人の子どもがあった。若いマリアとの再婚話は望むところでもある。

働き者の母フアナは娘マリアの自立した生き方に理解を示すが (C)LA CASA DE PRODUCCION y TU VAS VOIR-2015
働き者の母フアナは娘マリアの自立した生き方に理解を示すが (C)LA CASA DE PRODUCCION y TU VAS VOIR-2015

だが、マリアは同じコーヒー園で働く青年ペペに惹かれていた。自由の国アメリカへ行って働きたいというペペの話に、マリアは夢を膨らませ「いっしょに連れて行ってほしい」と懇願する。そんなマリアにペペは、自分に処女を捧げるなら連れて行くという。悩んだ末にペペの言いなりになったマリア。だが、ペペはマリアを置いて一人でアメリカへ発った。

傷心のマリアが妊娠したことを知る母フアナ。神に祈り、火山の岩場でジャンプさせ、なんとか堕ろそうとするが、思うようにはいかない。「この子は生きる運命だ」というフアナの言葉に、産んで育てて自分の生きる道を歩もうと決意するマリア。だが、父マニエルは、イグナシオに妊娠がばれたらここには居られなくと困惑し、フアナをなじる。そんな折り、村の農場では蛇の被害に悩まされていた。畑を焼いて蛇を駆除する作業をしていたとき、マリヤは足を蛇にかまれた…。

【見どころ・エピソード】
グアテマラの総人口の46%は、公用語のスペイン語を話せないマヤ系先住民が占めているといわれ、教育や公的サーヴィスを十分に受けられない差別と格差が現在もあるという。それは、蛇にかまれたマリアが町の病院で手当のために調書をとり妊娠の対処について問答するシーンなどからも窺われる。ブスタマンテ監督自身も暮らしぶりを経験的に認識している。その先住民の伝統と文化が、押し寄せる現代の価値観と圧迫感とともに、母と娘の視点に立って、“生”への内なる熱望としてたくましく描いている。

映画産業がまだ成熟に至ってないグアテマラでは、プロの俳優は存在していないという。母フアナ役のマリア・テロンだけが素人劇団での演劇経験を積んできた。現地で応募してきた出演者たち。その立ち居振る舞いが自然なだけに、映画の時代を見つめるジャーナリズム性が漂っていて印象深い。

本作は、グアテマラと日本との外交関係樹立80周年(2015年)を迎えた記念作品としてグアテマラ映画の日本初公開作品となる。火山と地震と温泉のある国。長い交流を持つ国なのだが、初めて知り合えるような触れ合いを覚える作品だ。 【遠山清一】

監督「ハイロ・ブスタマンテ 2015年/グアテラマ=フランス/スペイン語、カクチケル語/93分/映倫:G/原題:Ixcanul 英題:Volcano 配給:エスパース・サロウ 2016年2月13日(土)より岩波ホールほか全国順次公開。
公式サイト http://hinoyama.espace-sarou.com
Facebook https://www.facebook.com/hinoyamanomaria

*Awards*
2015年:第65回ベルリン国際映画祭アルフレッド・バウアー賞(銀熊賞)受賞。グアダラハラ国際映画祭作品賞受賞。トゥールーズ・ラテン映画祭観客賞、サンディカート・フランセス賞受賞。ヘント映画祭作品賞・若手審査委員賞受賞。フィラデルフィア国際映画祭審査員賞受賞。モントリオール世界映画祭国際女優賞(マリア・メルセデス・コロイ)受賞。スロバキア芸術映画祭女優賞(マリア・テロン)受賞作品。 2016年:第88回アカデミー賞外国映画賞ノミネート作品。