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お泊りの夜、年長の子が「絵本読んだろか」と… (C)ガーラフィルム/ノンデライコ

大阪市西成区の通称“釜ヶ崎”にある「こどもの里」。1977年にカトリック教会の修道会による日雇い労働者の街に子どもたちが安心して遊んで学べる場所「子どもの広場」としてスタートした。現在は、NPO法人の活動として地域の子どもたちが通ってくる遊び場としての学童保育事業とともに緊急一時宿泊施設、ファミリーホームとして地域になくてはならない“さと”になっている。ここに集まってくる子どもたちの姿をとおして彼らの親やスタッフの本音と裸の付き合いが見えてくる。

【あらすじ】
子どもたちは、自分たちの遊び場である「こどもの里」を自慢気に“さと”と呼ぶ。入り口に並ぶたくさんの運動靴。小さいくてもどれも存在感のオーラが漂っている。この“さと”では、0歳児から20歳までの子たちが障がいの有無や国籍の区別なく無料で受け入れている。「困ったときは、いつでもおいでや!」と子どもだけでなく大人にも声をかける荘保共子館長は、“さと”の設立時からここ一筋で働いている。そんな荘保館長に子どもたちが付けた愛称は「デメキン」。「言葉は荒々しいし賑やかだけど、みんな目がきれいでキラキラしている」と子ども大好き全開の荘保館長。

“さと”にやってくる大勢の子どもたちから、重義監督は軽度な知的障がいを判断されていることにコンプレックスを抱えているムードメーカーの中学生の少年。自転車が大好きな発達障がいをもつ5歳の男の子。児童相談所の判断で母親とは離れて「こどもの里」で暮らしている卒業間近の女子高校生。彼ら3人の“さと”での暮らしを縦糸にして、それぞれの家族とのつながりを追っていく。それぞれの親の“しんどい”様子がインタビューで素直に語られていく。その“しんどい”感情は、それぞれの子どもにも何らかの重さを伝え、しんどさの置き場を探している。

80年代から続いている”子ども夜回り隊”活動。ホームれるの人たちに毛布やみそ汁を贈り、彼らの思い出話などを聞きながら寄り添う”さと”の子どもたち。 (C)ガーラフィルム/ノンデライコ
80年代から続いている”子ども夜回り隊”活動。ホームレスの人たちに毛布やみそ汁を贈り、彼らの思い出話などを聞きながら寄り添う”さと”の子どもたち。 (C)ガーラフィルム/ノンデライコ

“さと”は、子どもの親たちにも休息できる場であり、学び合える場でもある。“さと”が主催する子育て支援の勉強会、すぐ近くにある“三角公園”での運動会は地域の一大イベントにもなっている。1980年代に起きた子どもたちによるホームレス襲撃事件を機に続いている子どもたちの活動がある。日雇い労働者のおっちゃんたちがどんな仕事をしてきたか、社会に役立っているのかなどを学んだ後、冬の夜空のもと“子ども夜回り隊”が街へ出かけていき毛布や温かいみそ汁を手渡してホームレスのおっちゃんらに声をかけていく。などの様子が綴られている。アイデアマンの荘保館長が、“釜ヶ崎”へ応援しに来る人たちのネットワークをフルに活用して子どもたちや地域の元気を支えている。その荘保館長が、くも膜下出血で倒れ、入院した…。

【見どころ・エピソード】
何といっても、元気いっぱいの子どもたちの顔・顔・顔。子ども同士だけでなく大人たちにも外連味なく声をかけ、ごく当たり前に受け入れる。重江監督は、荘保館長と同じように、そんな子どもたちに惹かれてボランティアに行き「元気をもらっていた」という。

そんなに元気な子どもたちにも、しんどい時はある。母親といっしょに家に帰っても、“さと”に行くと駄々をこねる子もいる。つい手を挙げていた母親だったが、“さと”とかかわるうち、手を挙げるのをどうにか我慢して泊りに連れてくる。暴力を抑えることができるようになったのはうれしいが、わが家より“さと”を選ばれるのはなんとなく悲しい。言葉では表現しにくい“さと”が在るこの街の元気さと憂いの混じった空気を、SHINGO★西成のラップが絶妙な感性で歌いあげている。 【遠山清一】

監督:重江良樹 2015年/日本/100分/ドキュメンタリー/16:9/DCP/ 配給:ノンデライコ 2016年6月11日(土)よりポレポレ東中野、第七芸術劇場ほか全国順次公開。
公式サイト http://www.sato-eeyan.com
Facebok https://www.facebook.com/satoeeyan777

重江良樹監督《トークイベント》(6月7日現在の予定。このほか多数調整中)
東京:ポレポレ東中野(連日:12:20/14:40/18:50 より上映)
・6月11日(土)12:20/14:40 各回上映後/荘保共子さん(こどもの里館長)、重江良樹監督
・6月12日(日)12:20/14:40 各回上映後/杉村敏枝さん(こどもの里職員)、重江良樹監督
・6月14日(火)18:50の回上映後/杉山春(ルポライター)、重江良樹監督
・6月17日(金)18:50の回上映後/小谷忠典(映画監督)、重江良樹監督
・6月18日(土)12:20の回上映後/汐見稔幸(白梅学園大学学長)、重江良樹監督
・6月21日(火)18:50の回上映後/仁藤夢乃(女子高生サポートセンターColabo代表)、重江良樹監督
・6月23日(木)18:50の回上映後/井上仁(日本大学日本大学文理学部社会福祉学科教授)、重江良樹監督
・6月24日(金)18:50の回上映後/稲葉剛(NPO法人もやい代表)、重江良樹監督
・6月26日(日)12:20の回上映後/西野博之(NPO法人フリースペースたまりば代表)、重江良樹監督