悪魔祓いの儀式を施すカタルド神父 (C) MIR Cinematografica – Opera Films 2016

ホラー映画のジャンルながらキリスト教(カトリック)と悪魔祓い師のエクソシズムをリアルに描いたウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」(1973年)、ミカエル・ハフストローム監督の「ザ・ライト -エクソシストの真実-」(2011年)などサイコドラマの名作は数多い。だが本作は、イタリア・シチリア島で実際に行われている悪魔祓いの礼拝(儀式)とエクソシストたちの働きを3年間追い続けたドキュメンタリー。悪魔に憑(つ)かれた人の身体が数十センチ浮遊するというようなホラー映画に見られる誇張的な映像は見られないが、悪魔祓いの儀式を受けている人たち、集会の異様な“現場”が真摯に伝わってくる。

【あらすじ】
冒頭、聖壇に向かい椅子に座っている中年女性の後ろ姿が映し出される。左手に立つ司祭が祈ったのち紫色のストラ(首から掛ける細長い布)の端を夫人の頭に置くと獣のような野太い呻きと叫び声が夫人の身体から発し礼拝堂に響きわたる。

シチリア島最大の都市パレルモ。著名なエクソシスト、カタルド神父のもとにイタリア国内外から悪魔に憑りつかれた人たちが大勢集まってくる。通常は個別に行われる悪魔祓いの儀式だが、毎週火曜日の悪魔祓いの日には集会も開かれる。カタルド神父が聖壇の前に姿を現わすと会堂の奥の方で体にタトゥを入れ顔にピアスをつけた若者が呻きと叫びを発し、取り押さえる人たちをにらみつける。学校で異常な行動をした少年、若い娘…カタルド神父が聖水と十字架で行なう悪魔祓いに異様な抵抗があちらこちらで起こり騒然とする会堂。

憑依した悪魔の追い出しを求めてくるのは、カトリックの信徒に限らない。一般の人たちも憑りついた悪魔からの解放を求めてカタルド神父のもとにやってくる。集まってくる人々の情況を聴き、悪魔の目的を説き信仰持つようにと語るカタルド神父。時には、遠方からの電話を受けて、「父と子と聖霊の御名によって汝に命じる。この者から出ていけ!」と受話器の向こうに命じると、悪魔の呻きと叫び声が聞こえてくる。

(C) MIR Cinematografica – Opera Films 2016

カタルド神父による悪魔祓いで解放された数人のその後をカメラが追う。おしゃれな中年の女性は、時々神父のもとに来ないと頭痛がすると言う。ピアスをしていた青年は、悪魔を追い出してもらった後も仲間とドラッグを吸っている。彼は、「社会は治療する場も与えず、逃げることさえ許さない」と持っていき場のない思い語り、カタルド神父に会いたいと教会にやってくる。集会で神父による儀式にのたうち回り両親に抱きかかえられていたハイティーンの少女は、穏やかな表情を取り戻した。カタルド神父は、精神的な障害やドラッグの問題、家族間のさまざまな相談などにも耳を傾け、真剣に悪魔と対峙しエクソシズムを執行し、解放と癒しの働きに邁進する…。

【見どころ・エピソード】
悪魔祓い、悪魔との対決についてはカトリック教会内にも真剣な議論があり、プロテスタントでも悪霊に対する霊の戦いを説く聖霊運動などについて様々な議論が続いている。悪魔が憑依している現象なのか、心理的精神的病なのかの見分けも難しい。悪魔祓いの儀式が集会のような公開の場で執り行われることに問題はないのだろうか。公然と執り行われているので、ドキュメンタリーとして憑依からの解放と癒しを求める人々が多いことの“現実”と“現場”が記録できたのは確かなことといえる。ルモンド紙では、ヴァチカンがそうした“現実”を無視せず、2004年以来レジーナ・アポストロム大学で年に一度エクソシスト養成講座を開催していることを報じている。2016年末、ローマ・カトリック教会の公式エクソシストは404名おり、ほぼ半数がイタリアに集中しているという。 【遠山清一】

監督:フェデリカ・ディ・ジャコモ 2016年/イタリア=フランス/94分/ドキュメンタリー/原題:Liberami 配給:セテラ・インターナショナル 2017年11月18日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト http://www.cetera.co.jp/liberami/
Facebook  https://www.facebook.com/ceteraliberami/

*AWARD*
第73回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門最優秀作品賞受賞。