友達つくりが苦手な志乃(左)と加代 (C)押見修造/太田出版 (C)2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

吃音(きつおん)症の少女と人づきあいが苦手な少女に、空気読めない少年。自分でも気にしすぎる弱点は誰しも持っているもの。それでも他人に伝えることができない悔しさから、一歩踏み出すきっかけになってくれる友達を探している青春。メインの登場人物たちは、それぞれに障害やハンディキャップを持っているが、障害を克服する物語ではない。誰しもが持っている弱さや弱みから一歩踏み出すことの怖れと痛み。いま青春、かつて青春の日々を想うとき、心に射した光の眩しさと温もりを感じさせてくれる佳作に出会えた。

二人がなりたいのは、普通
の高校生とミュージシャン

高校一年生になった新学期の始業日。新しい制服を着た大島志乃(南 沙良)は、鏡の前で自分の名前をつぶやき、自己紹介の練習をする。中学生の時に原因不明の吃音症になり、母音から始まる言葉をスムーズに発せない。人前では緊張してしまい特に難発(言葉が詰まり、間があく)がきつくなる。やたらハイテンションで場違いなジョークを発してドン引きされた菊地 強(萩原利久)が終り、担任教師の小川悦子先生(山田キヌヲ)に促されて自己紹介に立ち上がったが、自分の名前がなかなか言えずクラスメイトたちに大笑いされる志乃。だが、誰が自己紹介していても無関心に外を眺めていた岡崎加代(蒔田彩珠)だけは、無表情に志乃を見ただけでまた外を眺める。

授業でも質問に答えられない志乃は、昼食の弁当も教室で食べるのは気まずくて公社の裏へ行き一人で食べる。歌うときや誰もいないところで一人でしゃべるときは流暢に言葉が出るのだが…。昼休み、加代が自転車置き場の前を通るのを見た志乃は、気になってそっと後を追う。外階段に一人座ってカセットテープでブルーハーツの「青空」を聴いている加代。そのうち歌いだしたが相当の音痴。思わず笑いだす志乃に気づいた加代は、病気なのかどうかわからないという志乃に、「しゃべれなければ、書けばいいじゃん」とメモ帳とペンを差し出す加代。

翌日、加代に“一緒に帰ろう”とメモを見せる志乃。分かれ道で名残惜しそうな志乃を見て、加代は自宅に誘う。壁に貼られているミュージシャンのポスター、ベッドの傍に置かれているギターがある加代の部屋。“ギターを弾いて”のメモを差し出し、なかなか引かない志乃に根負けし、「笑ったら殺す」と渋々引き出す加代。興が乗り歌いだした加代、思わず笑いだした志乃に「帰れ!」ときつい拒否反応。ようやく友達になれそうだった加代を傷つけてしまい、後悔の涙を流しながら帰る志乃。

バンド特訓中の”しのかよ”に菊地はなんとか加入しようとするが… (C)押見修造/太田出版 (C)2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

街中で加代を見かけた志乃は、後をつけるとカラオケ店の前で中学時代の生徒たちに揶揄われている。思わず割って入った志乃は、「私と約束があるんです!」と必死に叫ぶ。カラオケに入った二人。志乃はきれいな高音で歌詞もよどむことなく歌っている。心を開いて向き合えた二人。加代はミュージシャンになるのが夢だと言い、志乃の夢を問いかけると「普通の高校生になりたい」と答える。加代は、志乃にバンドを組んで文化祭に出ようと提案する。戸惑いと心配顔の志乃に、加代は決めてきたバンド名“しのかよ”を書いたメモを見せる。練習曲は「あの素晴らしい愛をもう一度」、二人の特訓が始まった。知り合いに出会わないよう、バスに乗って町へ行き駅前で路上ライブにチャレンジした日、自転車の乗った菊地に見つかり「お前ら何やってるの?」と声をかけられ、志乃は歌詞が詰まって歌えなくなり、その場から走って逃げだした…。

リアルな吃音障害の演技だが
吃音啓もう映画ではない

南沙良の吃音の症状やそれにまつわる情況は、原作も映画も吃音症状の人たちからもリアルな描き方と演技に評価は高い。原作者・押見修造自身が吃音症の経験を持ち、自身の問題としても描いているが、原作にも本作にも“吃音”“どもり”という言葉は使われていない。吃音症に認定されると精神障害者手帳を受給できるのだが、そのような啓もう的な挿話も入っていない。原作者の願いは、“吃音漫画”“吃音映画”として観られるのではなく、「とても個人的でありながら、誰にでも当てはまる物語になれば」と思いながら描いたという。その意思を受け継いだ演出・演技が、ミドルティーン世代ならではの空気感を珠玉のきらめきにしている。青春映画の一つの頂きを観た思いがする。 【遠山清一】

監督:湯浅弘章 2017年/日本/110分/映倫:G/ 配給:ビターズ・エンド 2018年7月14日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
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