映画「戦場のメロディ」－－戦争孤児らの心に開花した明日を夢見る歌声
1945年8月15日、太平洋戦争は日本の敗戦によって集結し、日本統治から解放された朝鮮半島が、北緯38度線を境にして共産主義化された北朝鮮と自由民主主義参加に与する韓国とに分断された。1950年6月25日、北朝鮮軍による38度線突破によって火ぶたが切られた朝鮮戦争。その戦場のただ中から誕生
【あらすじ】
1952年。開戦以来、妹や家族を失い、凄惨極まりない前線では多くの戦友たちの死を見つめてきたハン・サンヨル少尉（イム・シワン）は、前線から離れ釜山の部隊への転属を命じられた。そこでの任務は、部隊の基地内に建設された孤児院を管理すること。戦場でサンヨルに命を助けられたチョン上司が部隊の司令官に推薦していた。
孤児院は、ボランティア精神にあふれる触れる若い女性パク・ジュミ院長（コ・アソン）が院長を務めていた。ジュミは、“カギ爪の男”と呼ばれているカルゴリ（イ・ヒジュン）が鉄くず拾いや万引きをさせている孤児の子どもたちにも基地内の孤児院に来るよう声をかけるが、カルゴリを恐れて孤児院にくる子は少ない。サンヨルが万引きの現場を見た14歳のオ・ドング（チョン・ジュンウォン）もカルゴリの世話を受けている。ドングの妹オ・スニ（イ・レ）は、両親を亡くし兄妹二人だけで生きてゆかねばならないため片時もドングの傍を離れようとはしない。そんな兄妹をみていると、家族を戦争で失ったサンヨルは、ドングとスニのような兄妹を見ていると自身の悲惨な過去がよみがえり胸が詰まる。
孤児院の子どもたちは、スキンシップに飢えている。サンヨルが来るとお兄いちゃん、おじさんと言いながら身体ごとぶつかってくる。ジュミが教会のピアノで弾く伴走に合わせて歌う子どもたちの歌声。大学で音楽を専攻したサンヨルは、ソルリン児童合唱団を結成しようと決意する。児童合唱団を創れば、危険な不発弾を解体して儲けようとする子どもたちを孤児院に保護しして、音楽をとおして心をいやし、身をもって連帯感を養える。部隊の兵士たちの前で慰問公演させることもできる。部隊の司令官はサンヨルの説得を了承した。そのやり取りを聞いていたカルゴリは、ドングとスニを孤児院に送り出す。ドングに基地のガソリンを盗み出す手伝いをさせるために。ドングと何かと衝突するチュンシュクが、ドラム缶からガソリンを盗む現場を見ていた…。
サンヨルは上官から米軍将校の前で児童合唱団を披露するように命令された。合唱団にとって大切な時期だが、敵対心剥き出しのドングとチュンシュク。サンヨルは、歌がうまく声もいい二人に、ダニー・ボーイとアニー・ローリーを同時に歌わせ、アンサンブルとハーモニーの妙味を体験的に教えて二人の距離を近づけようと努める。ドングとチュンシュクが徐々に打ち解けていくにしたがい児童合唱団もまとまっていく。どうにか合唱の披露は成功し、子どもたちの歌声は基地の将兵たちの評判も得ていく。だが、孤児たちの児童合唱団を戦闘地域の基地へ慰問派遣するようにとの命令を受けたサンヨルは、命令に反抗して合唱団を解散してでも子どもたちが戦闘に巻き込まれる危険から守ろうと決意する…。
【みどころ・エピソード】
朝鮮戦争当時に結成され戦後もアメリカ公演などを行なった実在の「海軍児童合唱団」をモチーフに作られた作品なだけに、30数名のソルリン児童合唱団の合唱や出演者たちの歌うシーンでの音楽が心に届いてくる。
音楽映画として良質なだけではなく、戦場での戦闘シーンはダイナミックな演出で流石に韓国映画。戦争の悲惨な出来事のなかにあっても人間が人間として家族を想い、ひと時の安らぎを音楽と祈りに求める存在であることがしっかりと描かれている。 【遠山清一】
監督イ・ハン 2016年/韓国/韓国語/124分/英題：Thinking of My Older Brother 配給：ハーク 2016年10月29日（土）よりシネマート新宿ほか全国順次公開。
公式サイト http://senjo-melody.info
Twitter https://twitter.com/melody_movie
＊AWARD＊
2016年：ウディネ・ファーイースト映画祭観客賞受賞作品。