映画「オケ老人!」--音楽を愛する心が素人指揮者と老人パワーの演奏を実らせた
趣味のなかでも合唱やアマチュア・オーケストラは、文字通り老若男女がひとつになって頑張れる世界。その老人たちのアマチュア・オーケストラに誘い込まれた若者との交流をコミカルに描いた荒木 源著『オケ老人!』の映画化。原作では男性の主人公を女性に設定変更し、人間関係や“好きなことはやっていきたい”という老人パワー日常生活での可笑し味に変化を付けた演出で、主人公の成長物語を描いたクラシック音楽エンターテイメントコメディ。
【あらすじ】
梅が丘高校に数学教師として赴任してきたばかりの小山千鶴(杏)。着任間もなく地元の文化会館でアマチュア・オーケストラの演奏を聴き、その素晴らしさに感動した。学生時代に趣味のバイオリンでオーケストラにも所属していた千鶴は、「もう一度、オーケストラで演奏したい」夢に浸り早速電話帳で楽団に入団の申し込みをするとすんなり了承された。翌日、練習会場だと教えられた公民館に行ってみると、なにか様子がおかしい。集まってくるのはどこか冴えない風貌の老人ばかり。話してみると、昨夜の感動的な演奏をしたのは市民ながらエリート集団の“梅が丘フィルハーモニー”(梅フィル)。だが、千鶴が電話したのは、設立からの歴史は長いがメンバーは老人ばかりの“梅が丘交響楽団”(梅響)だった。すぐに退散しようと思う千鶴だが、久し振りの若手団員の応募に喜ぶメンバーや指揮者とコンサートマスターの野々村秀太郎(笹野高史)の説得に押し切られてしまう。
颯爽と演奏する梅フィルとは大違いで、梅響のメンバーは指揮者の野々村はじめクラリネットのクラさんこと及川(左とん平)、チェロのトミーこと花田富雄(小松政夫)、オーボエのマーサこと花田昌江(藤田弓子)、ティンパニの棟梁こと戸山(石倉三郎)、第二バイオリンの宮崎しま子(喜多道枝)、フルートの元高校教師・真弓センセイ(芽島成美)、トランペットのラバウルさんこと竹岡亮吉(森下能幸)ら8人程度で千鶴を入れても編成楽器さえ足りない。みんな個性的で音楽は好きなのだが、演奏はアンサンブルというにはほど遠い。練習日は、お決まりの“飲み会”のほうが楽しみな様子。しかも、野々村は心臓の調子が良くないと言い出し指揮を千鶴に任せてしまう。
入団させられて間もなく、千鶴は“梅響”と“梅フィル”との因縁の関係を、野々村の孫娘・和香(黒島結菜)から聞かされる。“梅フィル”は、もともと梅響にいた代表でコンサートマスターの大沢義郎(光石 研)が有望な団員を引き連れて勝手に退団して結成されたセミプロ志向の強い楽団。しかも大沢は、町の家電大量販店「OS電気」の社長で、野々村が経営する町の電気屋さん・野々村ラヂオ商会の土地家屋を買収しようとしているという根深い関係。更には、なんと和香のボーイフレンド・コーイチ(萩原利久)は、大沢社長の息子でピアノが得意な好青年というからややこしい。
そんな折り、梅フィルがフランの著名な指揮者フィリップ・ロンバール(フィリップ・エマール)を招いて演奏会をするが決まった。憧れの指揮者フィリップ・ロンバールの指揮で演奏したい思い立った千鶴は、梅響のメンバーには内緒で梅フィルに入団する。信三に爆弾を抱えている野々村が倒れた。それでも、梅フィルの練習でめいぱいの千鶴は梅響のことをほったらかしてしまう…。
【みどころ・エピソード】
2013年のNHK連続テレビ小説「ごちそうさん」でヒロイン・め以子役を演じた杏の映画初主演作品というのも少し意外な感じがある。そんな芸達者な杏が笹野高史や左とん平はじめ小松政夫、石倉三郎、藤田弓子ら実力派役者たちと見事にかみ合って楽しませてくれる。
はらはらドキドキな出来事はあるものの、いわゆる悪人は登場しない。原作の面白さを十分に生かしながら、主人公を女性に変更した明るさと音楽を愛する心が確執を解きほぐす演奏へと結実し大団円に収まるストーリー展開は、家族で安心して観に行ける良質なエンターテイメント作品。 【遠山清一】
監督:細川徹 2016年/日本/119分/映倫:G/ 配給:ファントム・フィルム 2016年11月11日(金)よりTOHOシネマズ新宿、イオンシネマみなとみらいほかロードショー。
公式サイト http://oke-rojin.com
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