映画「ヒトラーの忘れもの」--ナチスへの憎悪を負わせられた少年兵たちと地雷撤去
ナチス・ドイツの敗戦間際、ヒトラー総統が戦地に出兵する15歳から18歳の少年兵たちを励ます有名なニュース映像がある。敗戦後、あのドイツの少年兵たちは無事帰国できたのだろうと誰しもが想像する。だが、この物語は、デンマーク国内でもほとんど知られていなかった歴史的事実にスポットを当てて、ドイツの少年兵たちに向けられた怒り、憤りをとおして大人たちによる戦争の愚かしさと矛盾を衝いている。戦争終結直後の物語だから描くことができたのであろう。一人の大人が良心の微かなうめきを聴きとろうとした行為に、人間性への希望を感じられたことにほっとする。
【あらすじ】
1945年5月、ナチス・ドイツの降伏によってヨーロッパ戦線は終結。’40年にナチス・ドイツ軍が侵攻、独立国の体裁は保たれたが占領政策の下にあったデンマークは解放された。だが、ドイツ軍は大西洋側の防御線の一環としてデンマークの西海岸に200万個ともいわれる地雷原を敷いた。それらの地雷を除去するため捕虜のドイツ兵たちが動員され、その中には多くの少年兵たちもいた。
強制的に地雷除去の訓練を受けさせられたのち、セバスチャン(ルイス・ホフマン)、双子のヴェルナー(オスカー・ベルトン)とエルンスト(エーミール・ベルトン)らを含む11名の少年兵たちは、デンマーク軍のラスムスン軍曹(ローラン・ムラ)の監督下に配属された。砂地に這いつくばり、斜めに棒を差し込んで地雷の在りかを探り、上蓋を回して外し信管を抜き取る。死と隣り合わせの緊迫した作業だが、1時間に6個の地雷を除去しろと命じる。粗末な小屋で寝起きさせ食料も与えない。
極度の緊張感からの疲労と空腹。作業を誤りヴィルヘルムが重傷を負い軍の駐屯地へ運ばれていった。双子の一人ヴェルナーが地雷に触れて即死し、弟のエルンストはショックのあまり放心状態に陥った。犠牲者が続出するなか少年兵たちの意識を支えているのは、割り当ての地雷除去を終えれば故郷へ帰還させるという約束だけ。ラスムスン軍曹は、劣悪な状況でも健気に除去作業を進める少年兵たちを見ているうちに、ナチスの罪を少年兵たちの償わせるこの行為に疑問をいだくようになった。とりわけ、純粋な心を持つセバスチャンと打ち解けることができてからは、少年兵たちの休暇や余暇に気を配るようになる。
だが、除去を終えた安全地域内でラスムスン軍曹の飼い犬が地雷に触れて爆死する事件が起きた。ラスムスン軍曹は、やるせない怒りが込みあがる…。
【みどころ・エピソード】
冒頭、本物の地雷を使って除去作業を訓練させるシーンがある。手が滑れば爆死、重傷を負うドイツの少年兵たち。ラスムスン軍曹が指揮する海岸線での地雷除去のロケーションは、実際に敷設されて除去した浜辺で行なわれた。そこでの撮影中に昔の地雷が発見され地元のニュースで報じられたという。地雷の恐ろしさがリアルに伝わってくる。
地雷除去に強制的に動員されたドイツ兵は約2,600人に上り(1945年5月5日~同年10月4日まで)、そのうち約半数が死亡または重傷を負ったといわれる。そのなかには戦地に置き去りに少年兵たちも多くいた。捕虜の強制労働は“捕虜の待遇に関する条約”に違反する行為だが、戦勝国の英国とデンマークは法解釈の援用ですり抜け、東西の冷戦構造で西ドイツとデンマークが自由主義陣営に与するとともにデンマークの捕虜は本国ドイツへ送還され、危険な強制労働の件も取り上げれなくなる。冷戦構造の崩壊後に、地雷除去のための強制労働が事実があからさまになる。だが本作は、そのような戦争による矛盾の事実を描くところで留まり、それ以上に社会正義を大上段に振りかざすことはしていないように感じる。不条理と理不尽さに振り回される人間の存在だが、内なる光(良心)ともつ人間への信頼と希望を見つめている作品だからだと思う。 【遠山清一】
監督・脚本:マーチン・P・サンフリート 2015年/デンマーク=ドイツ/ドイツ語・デンマーク語・英語/101分/映倫:G/原題:Under sandet、英題:Land of Mine 配給:キノフィルムズ 2016年12月17日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://www.hitler-wasuremono.jp
Facebook https://www.facebook.com/eiga.wasuremono/
*AWARD*
2015年:第28回東京国際映画祭最優秀男優賞(ローラン・ムラ、ルイス・ホフマン)受賞(上映時タイトルは「地雷と少年兵」)。 2016年:デンマーク・アカデミー賞最多6部門(作品賞・監督賞・オリジナル脚本賞・撮影賞・編集賞・観客賞)受賞。第69回デンマーク映画批評家協会賞作品賞・主演男優賞(ローラン・モラー)・助演男優賞(ルイス・ホフマン)受賞。ロッテルダム国際映画祭観客賞受賞。 2017年:第89回アカデミー賞外国語映画賞デンマーク代表作品。