事件の謎を解きほぐしていく兄・泉水(加瀬 亮=右)と弟・春(岡田将生)。 (C)2009「重力ピエロ」製作委員会

奇妙な始まりのミステリーだ。雑居ビルなどに連続して起こる放火事件。大火事には至らず死者も出ない。現場近くには欧文のグラフティアート(落書き)があることに気付いていく…。

伊坂幸太郎原作の同名の推理小説は93万部ともいわれるベストセラー。兄・泉水(加瀬 亮)、弟・春(岡田将生)、父・忠志(小日向文世)らが演じる「最強の家族」は、原作の存在感をリアルに醸し出していく。ラストの事件に向かって積み重なっていく出来事の端緒は、母・梨江子(鈴木京香)を襲ったレイプ事件とその重荷を背負った弟・春。宮城県・仙台を舞台にして起こるその過去と現在を、脚本と映像は絶妙に演出する。

だが、作品のキーワードは重い。親子とは、血の繋がり(遺伝子)か愛情関係か。殺人が許される正義とはなど。家族は背負った重圧を感じさせないほど楽しく、軽やかに最強の絆を育んでいく。それは、父が弟・春の誕生を決意した時に「自分で考えろ」と強烈に聴こえてきた「神の声」による。信仰者ではない父親のこの決断が育てた「最強の家族」。それは、現代の家族愛という崇高なオリンポスの台座なのだろうか。信仰者への一つの問いかもしれない。

重い真面目なテーマが、テンポのいい展開と進行と軽妙な会話から解けていく謎、さらに大きな事件へのアプローチ。原作者は、この映画を「低温なロックンロール」のように演じてくれていると評する。たしかに熱くウメクような叫びのロックではないが、しっかりとビートの効いた重みが作品のメロディを支えている。 【遠山清一】

2009年4月25日(土)より宮城先行ロードショー、5月23日(土)よりシネカノン有楽町1丁目、新宿バルト9ほか全国ロードショー。配給:アスミック・エース。

公式サイト http://jyuryoku-p.com