MOVIE「海角七号 君想う、国境の南」――諦め、断絶を超えていくもの
夢を諦めた台湾人青年の阿嘉と、夢を求めて日本から来た友子。台湾の南端・恒春で2人は出会う。阿嘉は郵便配達員になるが、ささくれだった気持ちで毎日を送る。一方、友子も描いていた夢とはほど遠く、電話一本で「雑用」を押しつけられ、いらだつ日々。気の強さも手伝って、トラブルが絶えない。
そんなある日、ひょんなことから恒春の音楽好きがバンドを組み、オーディションを受けることになった。個性の強いメンバーは子どもから老人まで。気乗りしない阿嘉だが、もう一度ギターを手にする。夢破れた者が再び夢に向かう葛藤。気の強い阿嘉と友子の恋。そして阿嘉が配達しそびれた60年前の日本人のラブレターが、要所要所で存在感を放ち、戦争時代の影をちらつかせる。
しかし、ウェイ監督がいうように、「日台の過去を問う映画ではない」。時代を超えて手紙が届けられようとしているように、人の思いは時代を超えていく。挿入歌「野ばら」も、日帝時代に流入した名残を伝えるが、メロディーは時代を超えて人々のノスタルジーをかきたてる。人と人を分断する現実をはるかに上回る力が、人の思い、音楽、夢にはある。
バンドメンバーのダイダイが、教会で思い切り奏楽し、会衆が驚いて飛び起きるシーンがある。「礼拝で寝てしまうことがある。でも、明るい賛美でみんな目覚めるんです」。パワーあるダイダイの性格を現すのにぴったりだったとか。クリスチャンの監督ならではの発想にもにやり。【奥山みどり】
監督:魏徳聖(ウェイ・ダーション)
12月26日から東京/シネスイッチ銀座、大阪/梅田ガーデンシネマ 配給:ザジフィルムズ
公式サイト http://www.kaikaku7.jp