”制度化された暴力”に苦しむ貧しい民衆に寄り添う若き日のベルゴリオ神父(後のフランシスコ法王) (C)TAUDUE SRL 2015

音楽や政治を取り上げているアメリカの大衆誌「ローリング・ストーン」が現代の顔として表紙に飾り、その熱狂的な人気から“ロックスター”法王とも呼ばれるローマ・カトリック教会第266代法王フランシスコⅠ世。彼が現法王になる日までの半生を描いたドラマ。1960~80年代の軍事政権下に母国アルゼンチンでの宣教活動を物語の柱にしており、英雄伝ではなく貧しい人々に寄り添い圧政からの救済に尽力する信仰者としての姿を描いている。“ロックスター”というパフォーマンスなイメージには程遠い、血を流すほどの信仰をもっての抵抗が、現法王の神のほか怖れない柔和なキリストの品性を醸し出している。

【あらすじ】
2013年3月、ベルゴリオ枢機卿(セルヒオ・エルナンデス)はコンクラーヴェ(教皇選挙)のためバチカンに招集された。コンクラーヴェの前日、大聖堂の屋上から町を見渡しながら枢機卿は自らの半生を振り返る…。

1960年、ブレノスアイレスのカフェで学友たちが神父に献身しようとするホルヘ・マリオ・ベルゴリオ(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)を留めようと説得している。ベルゴリオに恋するガブリエラ(パウラ・バルディーニ)の思いも届かず、ベルゴリオはイエズス会に入会し日本での宣教を希望する。だが、宣教師への道は時期尚早と諭され、母国アルゼンチンでの司牧に派遣される。それは「国内の試練のほうが、より過酷だっただろう。まさに暗黒だった」とベルゴリオは述懐する。

76年に始まり83年まで続いた軍事独裁政権。ベルゴリオは南米イエズス会の管区長に任命されていた。ブラジルなど近隣国同様、共産主義勢力の浸透を恐れる米国の後押しもあって軍の圧政は貧富の格差は広がり多くの民衆は貧困と苦渋のなかにあった。ベルゴリオが責任を持つ神学校の中にも軍事政権にすり寄るものがいる一方で、圧政に苦しむ民衆を守ろうとする司祭もいる。抵抗運動に対する軍の対処は厳しい。武装組織の家族や子どもたちの世話をする二人の神父が、止めさせようとするベルゴリオの説得を聞き入れないため教会から追放処置を受けた。直後、彼らは軍に連れ去られた。民衆の立場を擁護するオリベイラ判事(ムリエル・サンタ・アナ)にも当局の手が伸びつつあった。軍政に抵抗する者は武装組織・共産主義者とみなされ行方不明者になっていく。ベルゴリオは、連れ去られた二人の神父や多数の行方不明者らを解放させようと奔走し、海軍大将や大統領にまで掛け合う。

コンクラーヴェの前日、ヴァチカンを見渡しながら導かれてきた歩みを述懐するベルゴリオ枢機卿 (C)TAUDUE SRL 2015

母国での圧政下では、心と身体に深い傷を負いながらも解放された者もいれば、命を落としたもの、行方不明のままのものも多い。独裁政権が終わり、ベルゴリオはドイツの神学校に招かれ研究の日々を送っていた。ある日、教会で「結び目を解く聖母の祈り」をスペイン語で復誦する女性の声が聞こえてきた。その女性は「誰もが結んでしまう苦悩の結び目を、マリア様が解いてくれる」と語る。自分の“結び目”を心に思いながら祈るベルゴリオの目は涙が止まらなくなる。

ドイツから母国へ帰り、田舎の教会で神父の日々を送っていたベルゴリオは、法王ヨハネ・パウロⅡの命で補佐司教としてブレノスアイレスへ赴く。貧困地区での司教の務めもおろそかにしないベルゴリオは、立ち退きを迫られている数百世帯の住民たちを護るため市の担当者と対峙する…。

【みどころ・エピソード】
ブラジルなどラテン・アメリカ諸国が、独裁政権の圧政と貧困に苦しむ民衆への共産化運動の激しく対立する1960年代から南米カトリック教会に「解放の神学」の運動が発展した。“制度化された暴力”に虐げられ、貧困にあえぐ民衆に寄り添い救済への努力を説き、行動する「解放の神学」を標榜する者たちは教会内でも危険視されていく。ベルゴリオは、貧困を生み出す経済的要因を論証する方法論として積極的にマルクス主義を援用する「解放の神学」とは一線を画したが、“制度化された暴力”に苦しむ人々には司牧者として寄り添い救援の手を差し伸べた。命の危険も覚悟しての行動には、オオカミの中に送り出された羊のように「蛇のようにさとく、鳩のようにすなおでありなさい」というマタイ福音書のそのもののに、祈りと決断の生き方を見せられているように迫ってくる。 【遠山清一】

監督:ダニエレ・ルケッティ 2015年/イタリア/スペイン語、イタリア語、ドイツ語/113分/原題:Chiamatemi Francesco – Il Papa della gente 配給:シンカ、ミモザフィルムズ 2017年6月3日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
公式サイト http://roma-houou.jp
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