© シグロ、トモコーポレーション
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今日は8月9日。6日のヒロシマに次いで推定24万都市のナガサキに、有史以来2度目の原子爆弾が投下された。世界で初めて実戦で原子爆弾が投下されたヒロシマも当時の推定人口は35万人、このうち14万人が死亡したともいわれる。原爆を体験したものとして原爆の怖さを描かなければと書きつづられたマンガ「はだしのゲン」。

週刊マンガ雑誌「少年ジャンプ」に1973年―87年まで連載され、単行本(全10巻)・文庫本を含めた発行部数が1千万部を超えている『はだしのゲン』。その作者、中沢啓治さんが原爆ドーム前で新聞記者の取材に応じ、またインタビュアー渡部朋子さんと語り合いながら、被爆した小学校や実家があった場所などを訪ねる証言ドキュメンタリー。

蒔絵師で日本画を描いていた父親譲りか、小さい時から手塚治虫に憧れて、漫画家になるのが夢だった。10代中ごろからマンガの公募に応募し、早くから評価されていたこともあって上京した。漫画家として活動し始めた22歳の時に、長年原爆病院に入院していた母親が亡くなった。火葬された母親の遺骨は、箸で拾えないほど崩れやすくボロボロだった。

© シグロ、トモコーポレーション
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その時、それまで被爆者への偏見や父・姉・弟らが家に押しつぶされ、地獄のような被爆直後の凄まじさに目を背けてきた中沢さんは、原爆への怒りの感情が湧き起り、原爆をテーマにした作品を描き始めた。そのような、中沢さんの被爆体験と人情の温かさ冷たさ、作品への思いと平和への願いが語られていく。

被爆直後の情景をリアルなタッチで描く「はだしのゲン」は、小学生の平和教育などでも用いられてきただけに、様々な評価がなされている。被爆シーンの凄惨さに、怖いと感じる子どもたちもいる。だが、それでも表現を押さえて描いた中沢さんには、「怖いと感じてくれることがありがたい」という。誰にでも素直に入れるマンガを通して「子どもたちに素直に戦争反対の気持ちが根付いて行ったら作者冥利」と語る中沢さん。取っつきやすいソフトなアプローチの時代に、気骨のある証言を語ってくれている。   【遠山清一】

監督:石田優子 2011年/日本/77分 配給:トモコーポレーション 8月6日(土)よりオーディトリウム渋谷にてモーニングショー公開。
公式サイト http://cine.co.jp/gen/