©2011『天国からのエール』製作委員会
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沖縄県本部町にある「あじさい音楽村」。お弁当屋の地下にある音楽スタジオの名前。そのオーナーが20数人の高校生たちと手作りから始め、若者の夢を本気で手助けし、プロのバンドも輩出させた実話をもとにした作品。バブルがはじけ、景気が落ち込んでいく中で、人の心も世知辛くなり自分のことで汲汲としている。だが、この作品のモデルで’ニイニイ’と慕われた仲宗根 陽(ひかる)さんは、音楽をやりたいという若者たちに本気で場所を作り、本気で叱り、本気で応援した、ちょっぴり怖くて優しい’大人’だった。

学校の屋上でバンド練習をしていたアヤ(桜庭ななみ)、カイ(森崎ウィン)、キヨシ(野村周平)たちは、エレキギターの音がうるさいと近所からのクレームで止められる。弁当を買いに来ていた彼らが、練習場所のないことを悩んでいるのを知った陽(阿部 寛)は音楽が好きな彼らを支えてやりたいと思うようになった。借金してまで空き地にスタジオを作り始める。初めはいぶかしく思っていた高校生たちも、陽が本気でスタジオ作りを続けている姿に仲間を集めて手伝っていく。

店と家計を切り盛りしている妻・美智子(ミムラ)は「なんでそこまでやるの。他人のために」と反対する気持ちを隠さない。だが陽は「昔はいろんな人が助けてくれた。今の若い連中にはそれがない」と、ほっておけない気持ちを吐露する。

©2011『天国からのエール』製作委員会
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スタジオが出来上がり、高校生たちに「ここを自由に使っていい。ただし条件がある」と切り出す陽は、「あいさつしましょう!、赤点は絶対ダメです!、イベント全員協力!、後輩には優しくおしえましょう!、人の痛みのわかる人間になれ!」など’あじさい10か条’を守るよう約束させる。そして自らも、彼らの中に入っていき、イベントの応援や悩み事に本気で関わり、本気で叱っていく。そんな陽をスタジオに集まる子たちは’ニイニイ’と呼ぶようになっていく。

アヤたちのバンドには、もう一人ギターを入れたいという思いがあった。かつてバンドをやっていたユウヤ(矢野聖人)。テクニックは抜群なのだが、いまはバンドを止められて気持ちも荒れ気味。陽は、そんなユウヤとも正面から向き合い、ユウヤの母親とも話しに行くのだが。。。

いま、人とかかわることにある種の怖さを覚えさせられる。相手にどう受け止められるのか、心と心の距離感が分かりにくくなっている。’ニイニイ’が本気でかかわろうとすれば、子どもも大人も身構え、衝突もする。それでも、本気で’助けたい’という思いと行動は、いつか通じる時が来る。「愛の反対は、人に無関心でいることです」というマザー・テレサの言葉が思い浮かんでくる。   【遠山清一】

監督:熊澤誓人 2011年/日本/114分 配給:アスミック・エース 10月1日(土)より新宿バルト9ほか全国順次公開。

公式サイト http://yell-movie.com