風力で村を明るくしたいと夢見る'明り屋さん'
風力で村を明るくしたいと夢見る’明り屋さん’

‘中央アジアのスイス’と呼ばれるキルギス。国土の4割が海抜3,000m以上の高地平原の国。風光明媚なイシク・クル湖の畔にある小さな村に住む’明り屋さん’(アクタン・アリム・クバト)と呼ばれる電気工。彼の夢は、村に風車をたくさん作りみんなの家を風力発電で明るくすること。もう一つの夢は、男の子を授かること。そんな素朴でささやかな夢をもって暮らす平和な村に、利権をちらつかせながら人の心を掻き乱すやからが忍び寄ってくる。雄大な自然から清かに送られてくる恵みと夢への営みを、経済の発展と都市化のうねりの中で暮らしてきた日本に住む私たちに忘れつつある何かを詩的なメッセージで語りかけてくる作品。

‘明り屋さん’は、今日も自宅の風力発電の風車を手入れしている。そこへ警官がやってきた。電気代を払えない老人の家のメーターに細工したことがばれたのだ。いけないことなのは分かっているが、心のやさしい’明り屋さん’。どうにか家には戻れた。妻のベルメット(タアライカン・アバゾバ)のきつい小言はいただいたけれど。

豊かではないがつつがなく平和に暮らすこの村に、国会議員に立候補しているベクザト(アスカット・スライマノフ)が、村の土地を地域開発のために買いたいと話を持ちかけてきた。いぶかる村の村長や重役たち。だが、ベクザトのちらつかせるお金の魔力や壮大な話に、心がぐらいついてくる村人たち。

遊牧民の時代から続く騎馬競技コク・ポル。温和な営みの中にも、自然の中で家畜を守る勇壮な魂と生き様は連綿と受け継がれている
遊牧民の時代から続く騎馬競技コク・ポル。温和な営みの中にも、自然の中で家畜を守る勇壮な魂と生き様は連綿と受け継がれている

やがてベクザトは、風力発電で村を明るくしたいと、自分の夢を語り続けている’明り屋さん’にも触手を伸ばしてくる。。。

キルギスの人たちの顔立ちや表情が、私たち日本人とよく似ている親近感。寅さんシリーズでのマドンナのような役どころのきれいな娘さん。祖母と暮らすその孫娘は、人に言えないようなアルバイトで生計を立てていた。そのことに、やむにやまれぬ気持ちで立ち上がる’明り屋さん’だが。

この小さな村に巻き起こる出来事の一つひとつが、キルギスの近年の政治や世情の変化を映す鏡のようで興味深い。そして、夢を失なわまいとする’明り屋さん’。キルギスの自然を詞的に映し出す映像の流れの中で、’明り屋さん’の生き方が心に沁みてくる。

監督・主演:アクタン・アリム・クバト 2010年/キリギス=フランス=ドイツ=イタリア=オランダ/80分/英題:THE LIGHT THIEF 配給:ビターズ・エンド 10月8日(土)よりシアター・イメージフォーラム、第七藝術劇場ほか全国順次公開。

公式サイト http://www.bitters.co.jp/akari/