©『天皇ごっこ』製作委員会
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少し不思議な雰囲気で始まる。作家・見沢知廉(みさわ・ちれん:1959―2005年)の双子の妹(あべあゆみ)が、兄のことを語り始め、そして兄の死の謎を解こうと関わりの深かった人たちを訪ねる。この架空の双子の妹の物語とインタビュー取材でつながり浮かび上がる見沢知廉の人と作品と破天荒なまでの生き様。46歳で自死した生前の見沢知廉の生前のフィルムはほとんど使われず、見沢との出会いや出来事の証言をとおして浮かび上がってくる見沢知廉の’革命’。言いようのない閉塞に覆われる現在の社会の中で、インパクトをもって’自分は何者なのか’を考えさせようと迫ってくる作品。

教育批判と破壊活動で高校を退学処分となった見沢知廉は、1978に親友の設楽秀行と共に新左翼ブント戦旗派として三里塚闘争の最前線に出ていく。元満蒙開拓団の引揚者が主体となって農地開拓してきた土地を、何ら保障の方針も示されずに成田空港予定地とされたことに端を発したが、革新政党は早い段階から反対運動を離脱し、変わって新左翼セクトの介入と地元団体の分裂へと複雑化していった。その後、見沢と設楽秀行は新左翼から新右翼へ転向し、ゲリラ活動を指揮していく。そして、仲間内に起きたスパイ事件の中でその疑惑のあった同志を殺害し、懲役12年の実刑に服した。

獄中で書きつづったメモ原稿を、見沢の母親が仕事の後に原稿用紙に書き起こして出版された『天皇ごっこ』は、1995年に新日本文学賞を受賞し以後は作家として活動していく。映画はこの激しく自身の内面を社会にそして自分自身に大きくぶっつけて生きた見沢に、深くかかわってきた母親や親友の設楽秀行、鈴木邦男(一水会顧問)、雨宮処凛(あまみや・かりん、作家)、蜷川正大(二十一世紀書院代表)、中島岳志(北海道大学准教授)ら各氏ほかが、見沢との関係や文学性そしてその人柄を語っていく。

©『天皇ごっこ』製作委員会
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出世作『天皇ごっこ』は左翼系からも右翼系からも評価されている興味深い作品。その作品の映画化ではないが、左翼から右翼までの地平線に孤高に生き、社会革命も個人革命も自らに問い続けた一人の存在者のパッションが、インタビューに答える一人ひとりの言葉から伝わってくる。現在を生きる人たちに、自己との対峙、そして人とのつながりが何なのか、見沢のドラマに終わらず、見沢のドキュメンタリーとして問い掛けている。   【遠山清一】

監督・脚本・編集:大浦信行 2011年/日本/115分 配給:太秦 10月29日(土)より新宿K’s cinemaにて3週間限定ロードショーほか全国順次公開。

公式サイト http://www.tenno-gokko.com