©2010 UniKorea Culture & Art Investment Co. Ltd. and PINEHOUSE FILM.
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この作品の主人公ミジャを観ていて、昔、実践神学の授業で教授が、「詩人は聖書の預言者たちのように、現実と未来を洞察して語る」と言っていた言葉を思い出した。目の前にある事物や天空の惑星を見つめ、宇宙や天地創造、ときには魂や世界の終りをも研ぎ澄まされた感性と言葉で語る詩人。だが、聖書の預言者たちが聖書の神のみことばを説き明かして伝えても、民には理解されず悲嘆の淵に追いやられ、時には命さえ奪われたように、詩人にも言葉を見つけ出す苦しみと伝わらない悲しみに打ちひしがれる時があるのかもしれない。

60代半ばを迎えたミジャ(ユン・ジョンヒ)は、遠く釜山で働く娘の一人息子を預かっている。中学三年生のその孫の面倒を見ながら、在宅介護の仕事をしている。ぎりぎりの生活だが、安物の服であってもオシャレするのが大好きな明るい人柄。だが、ある日右肩に痛みを覚え診察を受けると「右腕よりも、物忘れの方が心配」と言われ精密検査を勧められる。その病院を出ると、中年の女性が放心したように救急車の前にくずれ落ちている姿を見る。川に身投げして運ばれてきたが死亡した女子中学生の母親だった。

その帰り道、ミジャは詩作教室の募集広告を見て、小さいころ詩人になるといいと言われていたことを思い出し通うことにする。詩の講師は「詩は、見て書くもの。人生に一番大事なことは、よく見ること。世界を見ることが大事」と教える。その教え通りに、台所のリンゴや木を見ては、感じることを書き留めていくミジャ。1か月の詩作教室は、最後の講座までに各自が詩を一篇つくり発表するのが課題となった。

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ある日、孫のジョンウクの友人の父親に案内され、ジョンウクら仲の良い6人組の父親たちから、ショッキングなことを教えられる。先日、自殺した女子中学生は、ジョンウクら6人に数か月間性的暴力を受けていたという。学校の教頭は、警察沙汰になる前に慰謝料を支払って示談にするようにと勧める。1人500万ウォンの慰謝料など、出せる当てはない。しかも、女子学生の母親に示談の話をするようにと懇願されるミジョン。

女子学生の慰霊ミサが教会堂で行われている。洗礼名はアグネス。出入り口に置かれていた小さな額に入ったアグネスの写真を持ち帰ってきたミジャ。アグネスの顔写真を食卓に置いても、何も話そうとしない孫のジョンウク。仲間の父親たちと学校側も外部に漏れないようにと腐心する。娘を亡くした後も、傷心の心を引きずりながら野良仕事をするアグネスの母親。
ミジャは、いつしかアグネスに心を寄せていく。そして、自分の心のうちをもじっくり見つめていく…。

認知症の初期と診断されて心に不安を覚える人は、少なくないだろう。しかも、生活保護すれすれの経済状況と介護での少ない実入り。孫と仲間たちのしでかしたことだが、ミジャの心は罪悪感と取り返しのつかない失われた命への思いに打ちひしがれる。そして、慰謝料を捻出するためにミジャがとった現実的な行動。そこには、社会の底辺を必死に生きるものの生き様が、隠しようもなく描かれていく。人間の哀しいまでの罪と欲望、そこから迫りくる悔悟と贖罪。イ・チャンドン監督は、物事を見つめて詩を作るというプロセスを敷きながら、複雑な人間の感情と行為を直視していく。詩作という心を写す鏡が、人間の存在という輝きを気づかせてくれる。   【遠山清一】

監督:イ・チャンドン 2010年/韓国/139分/第63回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞作品。 配給:シグロ、キノアイ・ジャパン 2012年2月11日(土)より銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。

公式サイト:http://poetry-shi.jp