©松林要樹
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福島第一原子力発電所から20Km圏内に位置する南相馬市原町区江井地区。ドキュメンタリー映像作家の松林要樹(まつばやし・ようじゅ)監督は、大地震直後に食料品などを車に乗せ被災地の福島へと向かう。そこで市会議員・田中京子さんと出会い、江井地区の人たちとの出会いと暮らしを半年間追うことになる。目に見えない放射能汚染が及ぼす迷惑と心のひだを映し出す映像に、どのように厳しい状況の置かれても人は怒りだけでは生きられず、信念と諦め、不安とユーモアとの揺れ動きを抱きながらそこに存在していく姿を見せられ心を動かされる。

避難所の人たちとも生活を共にし、20Km圏内の避難区域をパトロールする田中市議にカメラをもって同行取材する。ほとんど人が住まなくなったが、ところどころの家の窓ガラスなどは割れていて中を荒らされている様子だ。まだ、避難せずに足が悪いために思うように動けない妻の面倒を見ている老夫婦とも出会った。屈託なく水不足や食料のことなどを田中市議に話すが、「この次、何を持ってきてほしいですか」という松林監督の問いには、にこにこしながら「酒だね」とささやかな楽しみを隠さない。取材する松林監督を古いカメラを持ち出してきて写真に収める時の笑顔。やはり、訪ねて来てくれる人がいることは、心をしなやかに強くしてくれる。だが、ここもに強制避難勧告がだされた。

松林監督とのつながりは、田中市議夫妻や避難所での日常の触れ合いから次第に避難所で暮らす人の家族や思い出など心を支えているほのかな光の温もりにまで静に、和やかに触れていく。

©松林要樹
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作品のタイトル「相馬看花」とは、中国の故事「走馬看花」からとられた。本来は「走る馬から花を見る」との意で、物事の本質でなくうわべだけを見てまわることを言っている。しかし、ジャーナリストの橋田信介が、生前に「走っている馬の上からでも、花という大事なものは見落とさない」と解釈し、よきジャーナリストの象徴のような言葉に読みかえていた。橋田に私淑する松林監督は「走馬」を「相馬」と置き換え本作のタイトルとしたという。相馬に生きる人たちとの間に育まれてきた信頼関係が、土地を奪われても咲いていく’いのち’の営みを自然な心持ちで見つめていく。   【遠山清一】

監督:松林要樹 2011年/日本/101分/ 配給:東風 2012年5月26日(土)よりオーディトリウム渋谷ほか全国順次公開

公式サイト:http://somakanka.com