©2011『かぞくのくに』製作委員会
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25年ぶりに北朝鮮から両親と妹が住む国、日本に帰ってきたソンホ(井浦 新)。脳腫瘍の精密検査と治療のために3か月間だけ許可されての一時帰国。だが、突然の帰国命令。価値観が全く異なる国に、リエ(安藤サクラ)の兄ソンホはなぜ暮らしているのか。心の内側深く傷を負いながらも、しっかりと生きていくある在日朝鮮人家族の姿をとおして、国とは、家族とはという普遍的な問いを語りかけてくる。

ソンホの父親(津嘉山正種)も事業家の叔父も地元の朝鮮総連の事務所では一目置かれる立場を持ち貢献している。1960年代、北朝鮮の共産主義と政治施策は’地上の楽園’として啓発され日本のマスコミにも報じられていた。その時流の中で民族差別や貧困に苦しんでいた9万人以上の在日コリアンが、1984年までに北朝鮮に渡った。ソンホは、そうした’帰還運動’の促進策の中で両親、妹と分かれて今は北朝鮮に暮し家族も持っている。
一時帰国中は、監視役にヤン同志(ヤン・イクチュン)が付き、北朝鮮の国情などについては一切話せない。病気の治療だけでなく、ソンホには別件の任務も課せられているようだ。

思春期に別れた仲間たちは、いい大人になっている。それでもソンホの一時帰国を喜び、昔話に花が咲く。かつてのガールフレンドのスニ(京野ことみ)も今は結婚して家庭を持っている。その旧交を懐かしむ時さえ、独特の重苦しい空気が漂う。。

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病院で検査した診断で、3か月の滞在では十分な治療が出来ないと告げる医師。ソンホ自身、心に重く引っかかっていた任務をアプローチしたが成功はしなかった。その報告をしてほどなく、いっしょに一時帰国したソンホら3人に突然の帰国命令が下る。たった7日間の一時帰国。在日の家族らは、せめて当初の滞在予定まではと手を尽くすが、本国からの命令であれば聞き入られる術もない。全てを受け止めて心を尽くそうとする母親(宮崎美子)。納得できない心の叫びを身体全身で表すリエ。

ドキュメンタリー「ディア・ピョンヤン」で自分の家族を通して在日そしてピョンヤンの生活を描いたヤン・ヨンヒ監督が、自分の体験をもとに近くて遠い二つの国の間でたくましく生きる家族の物語を7日間の一時帰国に凝縮して描いている。
25年ぶりに幼かった妹と再会し、いっしょに買い物に行って買った高級スーツケース。この一つのスーツケースに押し込んだソンホの夢を、しなやかに受け入れたかのようなリエのラストシーンが印象的だ。 【遠山清一】

監督:ヤン・ヨンヒ 2012年/日本/100分/英題:Our Homeland 配給:スターサンズ 2012年8月4日(土)よりテアトル新宿、109シネマズ川崎ほか全国順次公開
第86回キネマ旬報ベストテン日本映画ベストテン第1位、主演女優賞受賞作品。

公式サイト:http://kazokunokuni.com