©2012 STANCE COMPANY IN&OUT
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2012年3月11日に起きた東日本大震災。宮城県石巻市にも津波が襲い、3,700人を超す死者・行方不明者が数えられている。旧北上川に近い湊小学校も1階部分すべて浸水したが、ここも避難所になり約300人もの人たちが、6か月間いっしょに避難生活した。藤川佳三監督は、4月21日にこの湊小学校避難所に入り、避難所が閉鎖される10月11日までカメラを回し、共に生活し、避難している人たちの声に傾聴してきた。避難所は個が確立されたスペースから共同の場へ移らざるを得ない、非日常的な日常生活。そこに暮らす人たちの、個としてのそれまでの生活やこれからの不安をいまどう受け止めようとしているのか、そのリアルな会話から存在感が存分に伝わってくるドキュメンタリー。

震災直後は、多くの人たちが’何かをしたい’と片付けや慰問などのボランティアに参加する。校庭でコーラスが歌った「ふるさと」に、「ありえない。ここの人たちはふるさとが無くなってしまったのに」と、避難生活している女性の一言。気持ちはありがたく受けても、心をかき乱される思いにハッとさせられる。

小学校の今後のことや、仮設住宅、それから先のこと。思いを巡らすことは多く、重たい事柄ばかり。だが、避難所で生活する人たちの表情は明るく、思いやりもかける言葉も温かい。

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そのなかでも、小学生のユキナちゃんと70歳目前の愛ちゃんの仲よしぶりは目を引く。震災前は同じ町内に住んでいたのに、互いに知らなかった。避難所で友達になってからの二人の関係は何とも微笑ましい。ユキナちゃんの屈託のない立ち居振る舞い。それでいて、しっかりと大人たちを見ていて、自分の状況もみつめている。そのユキナちゃんに、藤川監督はカメラを向けて、震災当日のことを聞いていく。しっかり言葉を選びながら、開かれていく心の内。その瞳には、避難所に在る’自分’の生きている姿が輝いている。

ずっと独り暮らしできた愛ちゃんは、持ち前の人柄がとても明るく、会話する周りの人たちの笑顔も絶えない。だが、その心の内が「震災で心が凍って、いまそれが溶け始めているから、涙がどんどん流れてくる」という言葉になって表出される。

愛ちゃんは、かつて住んだことのある仙台市の仮設住宅の抽選に当選した。その愛ちゃんを、「長持歌」を歌って送り出す石巻市立湊小学校避難所の人たち。そして、10月には避難者はいなくなり閉所された。

一時的ないっしょの生活のなかで結ばれた絆と育まれた心。その存在の確かさがリアルな会話の流れを通して、観る者に伝わってくる。 【遠山清一】

監督:藤川佳三 2012年/日本/124分/ 配給:「石巻市立湊小学校避難所」を上映する会、ムヴィオラ 2012年8月18日(土)よりK’s cinemaほか全国順次公開

公式サイト:http://www.minatohinanjo.com