子どものころ両親の離婚がトラウマになり結婚願望を持てない梓(黒木 華)。(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

主人公・秋村 梓(黒木 華)と恋人・小山澄人(中村 蒼)、父方の祖母・綾子(風吹ジュン)らが隣り家のボヤを鎮めたとき、不始末を詫びに来たその家の息子に「こんなんは相見互いや」と伝えたひと言が本作のタイトル。古くから「相見互いの身」などと言われてきた意味を問う若い梓と澄人に「誰からも何もしてもらわへん人って居らんと思う。気ぃついてないだけで、いろんな想いが巡って、自分のところに届いて、いるんよ」と教える綾子。そのシークエンスに、ふとイエス・キリストを試そうとして一番重要な律法は何かと質問した専門家に、十戒の第一の戒めと同じく重要な第二戒「あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい」(マタイ22:39)とイエスが答えた聖書の一節を想い起こした。

心が折れそうな時いつも
支えてくれた親友を想う

秋村 梓(中学時代:近藤 華)は、両親が離婚したことで桑名の中学校に転校してきた。だが町の環境にも、家にも、学校にも慣れずに、授業が終わるとトイレに逃げ込んでいた。そんな梓が、いじめに遭っているとき、カメラ好きの郷田叶海(中学時代:白鳥玉季)が機転を利かせて助けてくれたことから二人の友情は深まっていく。社会人になった梓(黒木 華)は名古屋でブライダルプランナーに就き、叶海(藤間爽子)は大阪を拠点にカメラマンとして活動している。ある日、叶海がパプアニューギニアへ出張する直前、実家の両親と親友の梓のところに立ち寄った。しばらく振りの対面に、梓の仕事の愚痴を親身に聞き、そっと背中を押す言葉をかける叶海。だが、その数日後、叶海の事故死が伝えられた。

中学生時代から心の支えであった叶海を失った梓。心の整理がつかないまま、返信が来ることのない叶海にスマホでいつものようにメッセージを送り続ける。だが、叶海の四十九日が過ぎたある日、梓のメッセンジャーアプリの画面が一斉に既読になった。それは、海外での事故死で娘を亡くし、心の整理がつかないままスマホを解約できずにいた叶海の母親・郷田朋子(西田尚美)が閲覧したものだった。だが、梓と叶海の両親は、互いに面識はなかった

エトキ:梓の愚痴の聞き役になり、さり気なく背中を押すような言葉をかけていた叶海(藤間爽子)。(C)2024「アイミタガイ」製作委員会

同じ頃、叶海の両親のもとに大阪から叶海宛に郵便物が転送されてきた。中身は子どもが貼り絵したような叶海への誕生日カード。差出人は、ある児童養護施設で、朋子と夫の優作(田口トモロヲ)が施設に娘の事故死を知らせると所長の羽星 勝(松本利夫)が訪れ、生前の叶海と施設の子どもたちとの交流を聞かされる。そして、施設に飾られている叶海の“写真展”を見に来てくださいと招かれる。事情があまり呑み込めないまま優作と朋子は、その施設を尋ねることにする。生前の叶海の生きてきた足跡と人との出会いが徐々に浮かび上がり、だれも気付かなかった何気ない思いやりの行動が善き連鎖へとつながっていく…。

意図しない行為が
触れ合う善き連鎖

原作は、四つの物語が最後の「蔓草」で一つに結実する中條ていの連作短編集『アイミタガイ』(幻冬舎文庫)。日常の気づかないほど小さな触れ合いが、それぞれの人生に大きな契機をもたらしているハートウォームな作品。脚本では中学時代からの梓と叶海のエピソードをなどを加えて新たに構成を編んだストーリー展開で、意図しない自分のささやかな行為が善き連鎖へとつながるカタルシスを印象深く描いている。梓の心の支えになっていた叶海にも、明るい笑顔の奥に、存在していることの自分の哀しみが希求している何かがあったのかもしれない。梓の心に生き続けている叶海の足跡は、イエスが語った「人からしてもらいたいと望むとおりに、人にしなさい。」(ルカ6:31)の言葉の足跡のようにも思える作品だった。【遠山清一】

監督:草野翔吾 2024年/105分/日本/ 配給:ショウゲート 2024年11月1日[金]TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー。
公式サイト https://aimitagai.jp

*AWARD*
2024年:釜山国際映画祭2024正式出品。