第一話「エキストラ」より (C)Photographed by Andy Wong, provided by Ten Years Studio Limited

香港が英国から中国に返還されて(1997年7月1日)、今年は20周年を迎える。特別行政区(一国二制度)として返還後50年間は資本主義システムが採用されることになっているが、様々な軋みも報道されていきた。本作が製作された2015年(製作年)から10年後の香港の近未来の現実を、30代の5人の映画監督が5つのショート・ストーリーで香港の今日と明日として描いている。

【あらすじ】
第一話「エキストラ」<原題:浮瓜。監督:郭臻(クォック・ジョン)。モノクロ>。
労働節(メーデー)が行なわれる集会会場のある一室。国家安全法案を可決させるため実行犯役に雇われたチンピラの男2人が、銃で来場者を脅そうと密かに準備を進めている…。

第二話「冬のセミ」<原題:冬蝉。監督:ウォン・フェイパン(黄飛鵬)。カラー>
再開発が進む香港は、黙示録の中に書かれた世界のような季節を迎えている。現在存在する生物は870万種。2人の男女が、壊れた家のレンガや、街で集めた日用品など身の回りの物を黙々と標本にしている。ある朝男が、自分のやってきた事を徹底し、信念を曲げないために自分を標本にしてほしいと女に頼んだ…。

第三話「方言」<原題:方言。監督:ジェヴォンズ・アウ(歐文傑)。カラー>
広東語が日常語だった香港だが、政策によって普通話(北京語)が唯一の公用語になり、タクシー運転手にも普通話の試験が課せられた。試験に合格しないと自由に乗客を乗せることが出来なくなり仕事をする場所も制限される。子どもの教育は普通話で行なわれるため、親子のコミュニケーションもアイデンティティも損なわれていく…。

第四話「焼身自殺者」<原題:自焚者。監督:周冠威(キウィ・チョウ)。カラー>
ある朝、イギリス領事館前で焼身自殺した人物がいた。だが、そのときを目撃した者はいない。焼身自殺者の身元は不明で、遺書もなく、目的もわからない。ニュースメディアが、識者や町の人々にインタビューし、独立運動との関連なども追っていくなかで香港の若者たちや巻き込まれてしまう雑貨屋の店主などの姿が浮き彫りにされていく…。

第五話「香港産の卵」より (C)Photographed by Andy Wong, provided by Ten Years Studio Limited

第五話「地元産の卵」<原題:本地蛋。監督:ン・ガーリョン(伍嘉良)。カラー>
国家安全法が施行された香港、最後の養鶏場が閉鎖された。香港産の卵(本地蛋)を卸売していた食料品店の店主は、残り少ない香港産の卵を「本地蛋」と表示して店先に並べた。すると店主の息子も入団している“少年軍”の子どもたちが、表示禁止用語リストを持ってやってきた。“少年軍”の制服を着た店主の息子は、父親に向かって「規則に違反している」と問い詰める。彼ら“少年軍”は、さらに“禁書”摘発のため市中の書店を巡り歩く…。

【見どころ・エピソード】
2014年9月に起きた「2017年香港特別行政区行政長官選挙」をめぐる抗議行動(雨傘運動)の翌年に製作された本作には、返還以降に香港で暮らす人々が観てきたこと、肌で感じ取ってきた日常に裏打ちされた2015年の“未来現実”が息づいている。テーマは重く、アイロニーとコミカルな演出で厳しい未来現実を描いているが、暗い気持にはならない。むしろ、希望を失うまいとしている気概が伝わってくる。これは、香港だけの近未来では終わらないだろう。エンドロールで表記される「善を求めよ、悪を求めるな。お前たちが生きることができるために。」(聖書のアモス書5章14節)のことばが、監督たちの力強いエールとして響いてくる。 【遠山清一】

監督:クォック・ジョン 2015年/香港/広東語/108分/原題:十年、英題:Ten Years 配給:スノーフレイク 2017年7月22日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次公開。
公式サイト http://www.tenyears-movie.com
Facebook https://www.facebook.com/tenyearsjapan/

*AWARD*
2016年:香港金像奨最優秀作品賞受賞。大阪アジアン映画祭正式出品作品。 2015年:第11回大阪アジアン映画祭の特集企画Special Focus on Hong Kong 2016上映。