自分の'正義'を貫くジャック・リーチャー(トム・クルーズ)。 ©2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
自分の’正義’を貫くジャック・リーチャー(トム・クルーズ)。 ©2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

社会の中での’正義’は、法の精神と法律によって本来裏付けられるもの。だが、法を守り切れない弱さや、法を逆手に取った不正は現実に起こりうる。それだけに心の中にある良心の光は、不文律だがあるべき’正義’を指し示し、時には義憤となって爆発する。そんな、自分がもつ’正義’をとことん貫き貫いて生きるクールな男ジャック・リーチャーを、トム・クルーズがなんともクールに演じている。

川岸の公園ベンチに座る男。子どもを遊ばせるベビーシッター。散歩する初老の人など、のどかな雰囲気をつんざく6発の銃声で、またたくまに彼ら5人が銃弾に倒れた。向こう岸の駐車場ビルからの狙撃。外れたのは水の入ったポリタンクに当たった1発だけで、後の5人はそれぞれに命中した1発が致命傷になっている。

現場に残った銃弾の薬莢や駐車場のコインから検出された指紋で、軍の元狙撃手だったジェームズ・バー(ジョセフ・シコラ)が逮捕される。検察官アレックス・ロディン(リチャード・ジェイキンス)とエマーソン刑事(デヴィッド・オイィロウォ)には黙秘し、ただ一言「ジャック・リーチャーを呼んでくれ」とメモするだけ。そのバーは、移送する車の中で同乗した囚人たちに因縁をつけられて暴行を受け意識不明の状態に陥った。

バーの弁護士ヘレン・ロディン(ロザムンド・パイク)は、アレックス検察官の娘だが、父親の捜査の仕方や容疑者との法的取引のやり方には反発している。だが、刑事や検察官たちがジャック・リーチャーを調べても、米軍MPのエリート捜査官だったが2年前に除隊してからの足取りは何もつかめない。リーチャーは、車の免許書もクレジットカードもE-Mailさえ持っていない。

容疑者バーの弁護士ヘレンと事件の謎を解いていくリーチャー。 ©2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
容疑者バーの弁護士ヘレンと事件の謎を解いていくリーチャー。 ©2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

途方に暮れていると、そこへ新聞で事件を知ったリーチャー自身がやってきた。バーは、軍にいるときイラクで銃撃事件を起こした。完全犯罪かに見えたその銃撃事件を解明したのがリーチャー自身だという。

こん睡状態にあるバーから事情を聞けないリーチャーは、独自に事件を捜査し、すべての状況証拠が狙撃手だったバーを犯人として指し示していることに疑念を持ち、バーが何者かによって犯人に仕立て上げられていると確信する。それは何のために?、何を得ようとしての策略と犯行なのか?。さらに操作するリーチャーとヘレンの身辺に、不穏な出来事が起こってくる。

住居は持たず、定職にも就いていない。携帯電話さえ所持せず、人付き合いも持たない無口な流れ者(アウトロー)のジャック・リーチャー。軍や警察など権威的な組織は信頼せず、法律にもこだわらない。それでいて、自分の中には明確な’正義’の基準があり、不正な悪は許せず、容赦なく叩き潰す。それは、’力の正義’そのもので、聖書に教えられる赦しと慈愛の生き方からはほど遠い。善悪では割り切れない人間の絆という複雑な心の機微もなく、勧善懲悪のストーリーそのもの。

その’正義’が、世間に背を向けて孤高に生きるアウトローのキャラクターによってクールに実現されることに爽快感を抱かされることも確かなこと。黒幕に近づくにつれて、リーチャーに及ぼされる’事件’もエスカレートしていく。罠にはめ因縁をつけてきた5人チンピラたちを、何回も「やめておけ」と警告し、言葉どおり一瞬のうちに関節を撃ちたたく格闘技の素早さ。スタントマンを使わず自らカーチェイスを実演してしまうトム・クルーズのクールさ。

リーチャーの捜査は、コンピュータなどに頼らず、地道な現場調べと容疑者の足取りをたどり明晰な頭脳と判断力で黒幕を追い詰め、果敢に挑んでいく。そのサスペンスフルな展開とハードボイルドな香りは、映画の王道のようで心地よい。’ミッション:インポッシブル’シリーズに次ぐトム・クルーズの新シリーズとしてその味わいを醸し続けてほしい。 【遠山清一】

監督クリストファー・マッカリー 2012年/アメリカ/130分/原題:Jack Reacher 配給:パラマウント・ピクチャーズ・ジャパン 2013年2月1日(金)より丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。
公式サイト:http://www.outlaw-movie.jp