Movie「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」――ジャーニーらしいドラマティックさ
「シンデラストーリーみたいだ!」。80年代にハードロックバンドのトップに躍り出たジャーニー、そのリードボーカルに招かれた40歳(2007年、当時)のフィリッピン人アーネル・ピネダ自身がインタビューに答えている表現だ。この言葉通り、マニラのストリートや場末のライブハウスで歌っていたのが、ある日突然、ジャーニーと同じステージで歌っているアーネルの感激に引き込まれ、いっしょにサクセスストリーを歩いている感覚になる。そして、映画館を出るときには’ドント・ストップ・ビリーヴィン’を歌いながら愉しい笑みがこぼれていることだろう。
2013年、バンド結成40年を迎えたジャーニー。このバンド名といっしょに誰しもが脳裏に浮かんでくるのは、ヒット曲のほとんどの作詞作曲に関わりボーカルリストを務めていたスティーブ・ペリー(1978-98年在籍)のリリカルで伸びやかなハイトーンの声と歌唱だろう。だが、体調を悪くしていたペリーが脱退した後は、ヴォーカリストが定まらず、メンバーそれぞれが楽曲によってリードヴォーカルを受け持ってツアーをこなし、2007年の後半には活動休止を宣言していた。
活動休止中の暮れに、オリジナルメンバーでリードギターのニール・ショーンが、You Tubeでジャーニーのカヴァー曲を歌うアーネル・ピネダを見つけた。マニラでも無名の歌手だったが、アーネルのファンがライブハウスでの画像をYou Tubeにアップし続けていた。バンドのメンバーと相談のうえ「ほんもののジャーニーで歌わないか」とEメールを送ったニール。アーネルはいたずらメールにしか思っていなかったが、ニールからの電話を受け、周囲の応援も受けてオーディションを受けるため渡米する。
ペリーを彷彿とさせるハイトーン。メンバーの全員がアーネルを’ジャーニーのヴォーカリスト’として受け入れ、ミュージシャンとしてリスペクトする。妻子をマニラに残し、アーネルのツアー参加がスタートした。
タイトル曲の’Don’t Stop Believin’はもちろん’Separate Ways (Worlds Apart)’はじめ26曲も挿入されているジャーニーの楽曲。アメリカツアーやアーネルの故郷マニラでのライブなど音楽映画としても秀逸だが、アーネルの人柄を丁寧に取材するディアス監督の人間ドキュメントとしての編集がすばらしい。
歌えば食べ物をもらえたため、12歳の時からあらゆる場所で歌い続け、家族の生活を支えてきたアーネル。ストリートなど貧しい生活の中でも、心はひねくれず歌うことを信じつづけてきて与えられたチャンス。誰もがアーネルのような成功を収めるものではない。だが、信じつづけることが、20歳近く歳の差があるニールやバンドのメンバーにも愛される人柄を形成してきたことだろう。
♪Don’t stop believin’ Hold on to the feelin’ Streetlights people ♪’ ウッドストックに心おどり、Rockで愛と自由と平和を教えられ歌ってきた人たちには、まさにジャーニーらしいドラマティックなドキュメンタリーだ。 【遠山清一】
監督:ラモーナ・S・ディアス 2012年/アメリカ/105分/原題:Don’t Stop Believin’: Everyman’s Journey 配給:ファントム・フィルム 2013年3月16日(土)より新宿ピカデリーほかロードショー。
公式サイト:http://journey-movie.jp