福島のシェルターで健気に飼い主を待つ犬 ©宍戸大裕
福島のシェルターで健気に飼い主を待つ犬 ©宍戸大裕

東日本大震災から2年が過ぎ、関連する様々なドキュメンタリー作品や劇映画が上映されている。その多くが、被災者家族の立場から震災と沿岸部を襲った大津波、そして福島原発事故による放射能被害の問題などがテーマに取り上げられれている。

だが、犬や猫そして牧場の牛たちなどの家畜も人間同様に被災し、多くのいのちを失っている。本作のユニークさは、そのことに人々の心を気づかせ、生き残ったいきものの命と出会い、向き合って生きようとしている人々が自然に取った行動と心の想いがシンプルに記録されていることだ。

大震災の1週間後、故郷・名取市にはいった宍戸大裕監督。津波にさらわれた直後の町の様子は、行き交う人たちとため息をつきながら一緒に歩くような感覚になり切ない。そして、道路を横切ったり走り去っていく犬や猫たち。

石巻では、捨てられた動物たちを里親募集などで助けていたボランティア団体も津波に襲われた。逃がす間もなく、ケージにはいったまま被災した犬や猫たち。命を落とした動物たちの濡れた体の重たさを辛そうに語る代表者。避難所に連れて来たものの規則で中に入れられず、外につないだまま被災した動物たち。その一匹、コロスケの笑顔を絵に描いて、思い出を大切にしている飼い主夫妻。規制区域の犬や猫たちに餌を与えに車で毎日行き来し、ときには保護して手当てするボランティア。「出会っちゃったから、その命に。出会った命には責任持ちたい」と言う言葉が素直に心に届いてくる。

石巻市で保護された猫 ©宍戸大裕
石巻市で保護された猫 ©宍戸大裕

犬や猫たちだけではない。南相馬の牧場で被曝した牛たちを殺処分せずに飼い続けている牧場主。牛乳や牛肉にして売れるわけもなく、何の見返りもなく飼育するだけの出費。ここにも’出会った命への責任’が果たされている。

聖書の創世記には、天地創造の始まりが記されている。神の姿に似るようにと創られた人・アダムは、すべてのいきものを管理する務めが託された。最初は、殺す管理ではなく生かすための管理の働き。神は、はじめにそれら造られたものすべてを見て「良い」とされたのだが…。
一時の慰めのために飼っていたいきものたちが、移転先の条件や成長し大きくなったペットを簡単に保健所へ連れて行き、その先の顛末に思いが至らない状況が多い。いきものたちとの’命の出会い’は、被災地だけでなく、身近な日常の生活の中にある。 【遠山清一】

監督:宍戸大裕 2012年/日本/104分/ 配給:東風 2013年6月1日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー。
公式サイト:http://inunekoningen2.com