妻マリオンが参加している合唱団に初めて連れてこられた夫のアーサーはロックとポップな選曲に憮然とする。 ©Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.
妻マリオンが参加している合唱団に初めて連れてこられた夫のアーサーはロックとポップな選曲に憮然とする。 ©Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.

自分の身の周りで起こる出来事に、何かひとこと言わずにはいられない。気に入ったことや愛情を素直に表現することは、心の無防備をさらしているとでも言いたげに、常に身構え頑固を通す。この不器用さは、30年間も息子との関係をぎくしゃくさせている。ただ一人、近所とのお付き合いも楽しめる社交的な妻だけが、そんな夫を大切にし、理解してくれる。その妻が、病気の再発で先立ってしまったら…。そんな頑固者を熟年者たちの合唱団に引き込み、心を鎧を脱がせていく妻。人生の熟練者たちが、ともに歌うことを愉しみながら互いに愛情を生き生き若返らせるヒューマンドラマ。

アーサー(テレンス・スタンプ)72歳。無口な頑固者として近所でも知られている。妻マリオン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)は、正反対に明るく性格で社交的。アーサーは、マリオンに素直な感謝の言葉を伝えられないが、態度は優しく守るように接する。

病弱で自由に身動きできないマリオンだが、コミュニティセンターで仲間たちと合唱することを心から楽しんでいる。合唱団の名称はThe OAP’z(年金’ズ)。歌が好きな熟年者たちだが、指導しているエリザベス(ジェマ・アータートン)の選曲は、モーターヘッドの’Ace Of Spad es’やソルト・ン・ペパの’Let’s Talk About Sex’などロックやポップを編曲しみんなをフランクに楽しませてくれる。マリオンは、アーサーに付き添いを依頼し、年金’ズのメンバーとも親しくなってもらいたいのだが、アーサーにはなんとも気に入らない歌ばかり。

ある日、練習中にマリオンが倒れた。病気が再発し、余命も迫っている。ますます体調が思わしくなくなっても、マリオンは合唱団で歌うことをやめようとしない。それどころか、アーサーもいっしょに歌うようにと誘う。

コンテスト本選で妻を想い、妻のために歌うアーサー。 ©Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.
コンテスト本選で妻を想い、妻のために歌うアーサー。 ©Steel Mill (Marion Distribution) Limited 2012 All Rights Reserved.

そのThe OAP’zが市民コーラスのコンテスト出場にチャレンジする。予選の最後の曲でマリオンは、シンディ・ローパの’True Colours’のソロパートを担当。息子のジェームス(クリストファー・エクルストン)と孫娘も見守る中で、アーサーへの思いも込めて歌いあげるマリオン。ジェームスは母親を祝福し感動したことを素直に表すが、アーサーは何の感情も示さず立ち去ろうとする。

そんなアーサーにエリザベスは、「人前でアーサーのために歌ったのに、あなたはマリオンに伝える言葉はないのか」と言葉をかける。帰宅して、歌っていたマリオンが幸せそうだったと精いっぱいの言葉を送るアーサー。ある日、アーサーは一人で練習しているThe OAP’zの扉を開いた。

ウィリアムズ監督自身が、半自伝的な家族との体験をもとに脚本にまとめ上げた。コメディタッチの挿話や年金’ズのファンキーなコーラスを交えながら、妻に先立たれる夫の喪失感、長年の父子の確執など身近な人生の危機的状況を歌詞の深みに心を寄せて乗り越えさせていく。愛するもののために歌う歌は、励まし合い支え合う力を奮い起こす。 【遠山清一】

監督:ポール・アンドリュー・ウィリアムズ 2012年/イギリス/94分/原題:Song for Marion 配給:アスミック・エース 2013年6月28日(金)よりTOHOシネマズ・シャンテ、7月5日(金)より全国公開。
公式サイト:http://encore.asmik-ace.co.jp

第37回トロント国際映画祭クロージング作品、第15回英国インディペンデント映画賞脚本賞、主演男優賞、助演女優賞ノミネート作品。