映画「ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界」
作品のフライヤーに「これは、希望の物語」のキャッチフレーズが青春のひたむきさをを感じさせる。自分の家庭や揺れ動く社会状況に現実と理想のジレンマを葛藤する青春。その現実に翻弄された少女が、’赦し’の心を自覚したことで見いだした生きることへの希望。「ジンジャーの朝」は、まさに希望への’あした’を詩(うた)う。
ファーストシーンは、広島に落とされた原子爆弾の爆発シーン。その年に産院のベッドで隣り合わせた母親同士から生まれた、ジンジャー(エル・ファニング)とローザ(アリス・イングラート)。幼少から親友の二人は、高校生に成長。その1962年が物語の舞台になる。
着るものの好みは同じで、いつも連れだって小さな冒険を楽しんでいる二人。町でボーイハントしたりヒッチハイクで海辺の町へ遊びに行ったり。父親がいなくなったローザは、どことなく男の子に積極的にアプローチする。
ジンジャーは、そこまで悪ぶれない。だが、両親の関係が冷め切っていることは、よく分かっている。画家を目指していた母親のナタリー(クリスティーナ・ヘンドリックス)は、父親のローランド(アレッサンドロ・ニボラ)と結婚してから家事に専念し、ジンジャーには少し口うるさく感じさせられる。無神論実存主義で平和主義の思想家ローランドは、ジンジャーにとって物わかりが良く新しい知識を教えてくれる刺激的な存在。
夏が過ぎるとキューバ危機への報道が熱を帯び、世界中が米ソと関連諸国間の核戦争への危機を現実のものと受け止め、反核運動も高まっている。ジンジャーもバートランド・ラッセルの著書を読み「百人委員会」に賛同し、親戚の友人で女性活動家のベラ(アネット・ベニング)とともに反核デモに参加していく。
ジンジャーほどには反核運動にのめり込めないローザ。むしろ、ローランドには、親友の父親以上の関心をいだき、しだいに親密になっていくいく。親友だったジンジャーとローザの関係に、いつしか溝ができ次第に深く大きくなっていく。家庭を見れば両親の関係は、完全に冷え切っている。そんな中でナタリーは、また絵を描き始めた。世界は滅びてしまうのではないかと真剣に憂えていくジンジャー。その心が、音とをたてて壊れ始める。
自己の確立をもとめて大人や社会への正義感、自分自身ともぶつかり合う青春の一時期。自分の言動が時として周囲を傷つけ、困惑させる。一方で、親友や大人たちから、深く傷つけられているナイーブな心。そうした自己を内観しつつ生まれるジンジャーの詩のラストシーンが美しい。 【遠山清一】
監督:サリー・ポッター 2012年/イギリス=デンマーク=カナダ=クロアチア/英語/90分/映倫:PG12/原題:Ginger & Rosa 配給:プレイタイム 2013年8月31日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開。
公式サイト:http://www.gingernoasa.net
Facebook:https://www.facebook.com/gingernoasa?fref=ts
2012年トロント国際映画祭スペシャル・プレゼンテーション部門出品、BFIロンドン映画祭オフィシャル・コンペティション部門出品、英国インデペンデント映画賞主演女優賞(エル・ファニング)ノミネート、タリン・ブラック・ナイト映画祭監督賞受賞、バリャドリッド国際映画祭賞主演女優賞受賞、2013年サンタ・バーバラ国際映画祭ヴァーチュオソス賞(エル・ファニング)受賞作品。